(※写真はイメージです/PIXTA)

田中角栄の時代は官僚全盛の時代です。30歳代、40歳代の課長補佐、課長クラスが法案をつくり予算を組み立て、国を動かしていました。そんな官僚の心をどうやってつかんだのでしょうか。ジャーナリストの田原総一朗氏が著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)で解説します。

秘書官が驚いた「霞ヶ関の全面協力」

■官僚が全面協力して生まれた『日本列島改造論』

 

「田中さんは、縁を育てる天才だった―」

 

通産大臣(現・経済産業大臣)、総理大臣の秘書官として角栄を支えた小長啓一は、こう証言する。まず縁をつくり、その縁を育て放さない。縁をとにかく大切にする。角栄はその天才だった。

 

縁は必ず仕事に生きてくる。跳ね返ってくる。しかも、にわかづくりの損得勘定、利害関係ではない縁は強い。縁でする仕事だから、つながった人は採算度外視でいい仕事をしてくれる。

 

「角さんの仕事なら」
「角さんのためなら」

 

そう言って動いてくれる。だから縁でつながった仕事の品質は利害を超える。当然、仕事の品質は高くなる。

 

『日本列島改造論』がこの世に出たときがそうだった。1971年10月、日米繊維交渉が妥結してからしばらくして、当時、通産大臣だった角栄が秘書官の小長にこう切り出してきたという。

 

「俺は政治家になって以降、一貫して国土開発の問題に取り組んできた。都市政策大綱はその経験や知識に裏打ちされたものだ。通産大臣になり、工業の再配置の問題もかなりやった。そのあたりのことをまとめ、集大成して1冊の本にまとめてみたい。小長君、手伝ってくれるか」

 

小長は秘書官だ。断る理由はない。

 

「わかりました。もちろんです。大臣がおっしゃるならやらせていただきます」

 

即答はしたものの、内心は不安だった。「国土開発」「工業の再配置」そして「そのあたりのこと」と言うが、角栄の関心の幅は広い。知識も深く豊富だ。それを集大成して1冊の本にするとなると、その領域は通商産業省がカバーする範囲を超えてくるだろう。

 

本当にできるのか。「縦割り」「権益争い」の激しい霞が関である。「国土」を語るのであれば、関係する省庁すべての了承をとりつけなければならない。小長がいくら大物官僚だといっても、通商産業省という1省庁の中での話だ。角栄にしても同じで、当時は通産大臣であって、まだ総理大臣ではない。限界はあった。

 

こういった場合、霞が関で大切なのは、まずは筋を通すことである。つまり関係省庁との調整だ。角栄が実際に動き出す前に、第一報を入れておくことが重要だった。

 

「田中さんが都市政策大綱に肉付けして国土開発の集大成をやると言っているんです。協力してもらえますか」

 

小長は建設省(現・国土交通省)や郵政省(現・総務省)、大蔵省(現・財務省)など、関係が予想される省庁に、丁寧に電話を入れて事情を説明した。

 

するとどうだ。まったくの拍子抜けだった。「どういうことだ」「具体的な内容を紙にしてもってこい」などと難しいことを言う省庁は1つもなかった。

 

「角さんがやるのか」
「そうです。角さんです」
「そうか、角さんがやるなら、うちは全面的に協力させてもらいます」

 

どこも二つ返事。相手はそれぞれの官房長、局長クラスだったが、みんなこういう反応だったという。

 

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    本連載は田原総一朗氏、前野雅弥氏の著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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