実家の広々とした敷地は「母と子、4人の共有名義」
今回の相談者は、60代の野田さんです。90歳の母親が亡くなり、相続について悩んでいるとのことで、筆者の事務所を訪れました。
野田さんの母親の相続人は、野田さん、野田さんの兄、そして亡くなった弟の子で野田さんの甥の3人です。野田さんの父親は10年前に、弟は3年前に、それぞれ亡くなっています。
「父の相続のとき、実家の敷地を母と私たちきょうだいの共有にしたんです。そのため、今回の手続きが複雑になってしまいまして…」
野田さんの実家は広い道路に接した角地ですが、180坪と広く、奥の東側には母親と弟家族が暮らしていた実家、南側と西側には、野田さんと兄がそれぞれ家を建て、自分の配偶者と子どもたちと暮らしています。
それぞれの家の周囲は、花壇に使うようなプラスチックの低い柵で区切っていますが、土地の登記簿はひとつの土地のまま、母親と3人の子どもたちの共有となっているのです。
土地を分筆しないと、今後の活用は限りなく不可能に
母親の財産は、自宅敷地の半分の権利と預貯金で、現状のままでは相続税の申告が必要です。母親の自宅部分については、母親と同居していた甥が相続すれば、小規模宅地の特例が適用できます。
そうすると、相続税は預金から支払えるため、納税資金の不安はありません。
しかし、土地が一筆のまま全員の共有となっているため、母親の相続手続きを終えただけでは「共有名義」の問題は先送りされてしまいます。そのままでは、せっかく財産を相続しても、各自が自由に活用できません。
このタイミングで問題を解消するには、相続手続きと合わせ、甥が80坪、野田さん・兄がそれぞれ50坪ずつに土地を分筆する必要がありますが、それにはまず相続手続きを行い、そこから各自へ土地を分筆し、さらに共有を解消するように等価交換して名義を寄せていく手続きをしなければなりません。
父の相続時に整理しておけば、不要な費用だったのに…
父親が亡くなったときにはすでに現状の利用だったのですから、本来ならそこで分筆し、母親とそれぞれの子どもが共有して相続税を軽減し、二次相続では、母親の名義がそれぞれに入り組まないかたちで相続するよう算段しておくべきでした。
ところが、分筆せずに全体を共有したばかりに、共有解消の等価交換が必要となり、分筆、交換登記に余分な費用がかかることになってしまいました。ほぼ等価で交換できることで、交換差益の譲渡税はかかりませんが、登記費用が200万円以上も余分に必要となるほか、測量や分筆の費用も発生します。
これらは、先を見越して一次相続で手続きをしておけば、かからなかったものばかりです。しかし、野田さんをはじめとする相続人の方々も、今回共有解消しなければさらに大変になるという認識のもと決断し、手続きを進めています。
「私の家族は仲がよくて〈みんな一緒に〉〈みんな平等に〉という意識があったんです。共有解消を先送りしなければ、こんなに大変でお金のかかる手続きも、しなくてすんだのに…」
野田さんはがっかりした様子でした。
「いやいや、今回決断されなければ、この先はもっと大変になりましたよ」
「ここで対処しておけば、今後の不安も解消できますから…」
筆者と事務所の税理士は、野田さんを口々に慰めました。
その後、筆者の事務所の税理士や司法書士が手続きを進めて、無事に相続手続きをはじめ、分筆や必要な費用の支払いは完了しました。
「面倒ごとが解消できて、将来の不安もなくなりました」
分筆後、自宅回りの低い柵は境界に沿って移動したそうですが、親族の行き来はこれまでと変わることなく、母親亡きあとも円満だといい、野田さんは笑顔を見せてくれました。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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