父親の遺産すべてを相続したのは「3番目の妻」
今回の相談者は、50代会社員の渡辺さんです。養母の今後の相続について悩みがあるということで、筆者の元に訪れました。
渡辺さんの父親には3回の結婚歴があります。最初の妻との間には長男が、2番目の妻との間には渡辺さんが、そして渡辺さんの養母でもある3番目の妻との間には異母妹が1人います。
父親が亡くなったとき、長男は結婚して家を出ていましたが、渡辺さんと異母妹は未婚で同居をしていました。
渡辺さんの父親の財産はすべて養母が相続し、自宅も養母名義です。自宅は店舗併用の小さなビルで、父親が健在のときは1階フロアの一角で飲食店を営んでいました。父親が亡くなったあと、養母だけでは店を切り盛りできず、その後は貸店舗として家賃収入を得る生活を送っています。
実子に恐れをなした養母、義理の子と養子縁組を決意
渡辺さんは学生時代から養母と一緒に生活していたこともあり、いまも定期的に実家に顔を出すなど、関係は良好です。長男と養母の関係も悪くはありませんが、関り自体が薄く、冠婚葬祭以外では顔を合わせることもありません。
じつは数年前、渡辺さんは養母と養子縁組をしました。長男とは養子縁組していないため、養母の相続人は渡辺さんと異母妹の2人です。
「養子縁組は母からの提案でした。じつは、妹の性格的な問題が影響しておりまして…」
異母妹は数年前に離婚し、子どもを連れて養母の暮らす実家に戻ってきたのですが、年齢を重ねた実の母親を大切にするそぶりもなく、渡辺さんは養母からしばしば泣き言を聞かされてきたといいます。一方、妹は妹で、母親と渡辺さんの親密な関係が面白くない様子です。
妹は母の財産を取り上げ、すべてを管理し…
「母のところを訪れたとき、妹から面と向かって言われたんです。〈母の財産は私のもの、あなたにはなんの権利もないんだからね、よく覚えておいて〉って…」
「母は妹の横暴な態度を見て、自分の老後と私のことが心配になったのでしょう。母からの提案で、私と養子縁組することになりました」
そのような経緯があってもなお、異母妹は、母親と同居していることを強みに、母親のお金を管理し、母親本人も自由にならないといいます。渡辺さんも母親の資産状況は一切わからないといいます。
母親の預貯金を握って好き勝手に使っているばかりか、自宅ビルも異母妹が住んでいるため、このままでは将来の相続も簡単にはいかないでしょう。
「異母妹に独り占めされないようにするには、これからどうすればいいのでしょうか…」
渡辺さんは筆者の前でうなだれました。
遺言書作成を急ぎ、その後の展開も予想・準備を
筆者は、税理士、司法書士といったスタッフとともに、渡辺さんへ段階的な対策を提案しました。
①遺言書作成をしておく
まず視野に入れるべきは、養母に遺言書を作ってもらうことです。実印は異母妹が管理していると聞きましたが、養母に明確な意思があれば、印鑑登録をし直すことは可能です。懸念されるのは、もし今後、養母に認知症の兆候が出てきたら作成が難しくなる・あるいはできなくなるという点です。早めに動くことが大切です。
②預金の確認・取引に関する証拠集めをしておく
通帳や印鑑のすべてを持ち去られていても、養母本人が金融機関の窓口に行って手続きを行えば、印鑑の変更や通帳の再発行、これまでの明細の入手は可能です。しかし、異母妹が知ればトラブルになる可能性が高いので、その点は注意が必要でしょう。
③相続発生後までを想定しておく
養母が亡くなったあとの遺産分割協議、あるいは遺留分請求も想定しておきます。万一通帳の明細が入手できなくても、養母が亡くなってからでも入手可能ですので、明細を追って速やかに財産額がつかめるよう、金融機関の口座をリストしておくなどしましょう。
筆者とスタッフからの提案を聞いた渡辺さんは、「母親としっかり相談して、しかるべき対応を取ってもらいます」と、決意した表情で語ると、筆者の事務所をあとにしました。
その数週間後、渡辺さんから連絡がありました。渡辺さんの養母は、実印を作り直したとのことです。そして、手元からなくなってしまった銀行の通帳類も、再発行する予定とのことでした。
「母は難しい年齢の私にもがまん強く、優しくしてくれて、本当に感謝しています。今度は私が母の生活を守るため、力になろうと思います」
電話の向こうの渡辺さんの声からは、前向きな気持ちが伝わってきました。
そして近日、まずは遺言書作成のため、母親と一緒に相談に乗ってほしいとの依頼もあり、筆者と司法書士等の資格を持つスタッフも準備を進めています。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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