父の相続で受け取った遺産は、兄たちの1/10程度
今回の相談者は、70代の主婦の井上さんです。最近亡くなった母親の相続のことで心配事があるとして、筆者の元を訪れました。
井上さんの父親は15年前に亡くなりましたが、遺言書がなかったため、母親ときょうだい5人(長男・二男・長女の井上さん・二女・三女)の合計6人で遺産分割協議を行い、手続きしました。
亡き父親は複数の不動産を保有しており、長男と二男は、いま家を建てて暮らしている土地を相続し、母親は自宅とそれ以外の残りの土地を相続しました。長女の井上さんと2人の妹たちは、預貯金を母親と分けました。現金の半分は母親が相続し、残りを娘3人で3等分したのです。
母親の相続額は不動産と預貯金でおよそ1億円、長男と二男は自宅の敷地の約2,000万円、一方で井上さんと妹たちはそれぞれ現金200万円で、兄たちの10分の1程度でした。
父親の遺産分割協議書に、母親の相続時の指示を加筆!?
「母の相続の相談をする席で、兄たちが、父親の遺産分割協議書を持ち出してきたのです。最初はサッパリ意味が分からなかったのですが…」
父親の遺産分割協議書には、末尾に母親の筆跡で、母親の相続のことが補足されていました。そこには「母親名義の自宅と土地は、母親が亡くなったときに三女が相続する」と書き加えられていました。
母親と同居する独身の三女が、母親の介護をすることを踏まえ、どうやら母親があとから加筆したようなのですが、井上さんは事情を知りませんでした。
「父親の遺産分割協議書に、このような書き込みがされていて…。黙っていたら、コメント通り相続が進んでしまいそうで困っているのです」
筆者と事務所スタッフは、井上さんが広げた書類をのぞき込みました。
「書き込まれたときは合意を得られていたのかもしれませんが、こちらはあくまでも父親の遺産分割協議書ですから、母親の相続には使えません。あらためて作り直しが必要ですよ」
筆者がそう説明すると、井上さんは、
「そうなんですね、わかりました…」
とうなずきました。
具体的な分割案を作成し、自らネゴシエーションを
後日、井上さんはきょうだい間で話し合ったとして、再度、相談に来られました。
母親と同居してきた独身の三女の今後を気にかける意見がある一方、井上さんと二女は、父親の相続時には兄たちの10分の1程度しか相続できなかったため、今回の母親の相続でなにも受け取れないというのは、ちょっと理不尽過ぎるのではないかと思い始めたといいます。
「前回、兄たちは家の敷地をもらいましたし、今回、下の妹が母の遺産をすべてもらうとなれば、私と上の妹はすごく損をすることになりますよね。鷹揚な態度を取る兄たちに腹が立ってきました…」
筆者は、井上さんが中心となって遺産の分割案を作り、具体的に提示してみてはどうかとアドバイスしました。分割案には個々の取得分と相続税を明記した書類にすることが必要なため、筆者の事務所の税理士のサポートも提案しました。不動産の共有はせず、自宅や土地を相続する人・しない人の代償金の額などを算出するなどして、具体的な数字を出さない限り、話し合いは進まないからです。
いくら母親の相続について言及があったとしても、父親の遺産分割協議書を母親の相続に使うことはできません。
井上さんは「具体的な案や税額が出せれば、方向性が見えますね」といって安堵されました。これからまたきょうだいに報告し、書類作成に着手する予定です。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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