母を看病した末娘が離婚、今度は父をサポート
今回の相談者は、70代の内藤さんです。内藤さんは最初の結婚で、2人の娘に恵まれました。しかし、娘たちがまだ小学生のころ、妻が事故で他界しました。その後、いまの妻と再婚し、1人娘が生まれました。
娘たちは20代で全員嫁ぎ、実家を離れていましたが、4年前に妻が病気を患った際、末娘が心配し、定期的に実家へ戻ってくるようになりました。
その後、看護の甲斐なく妻は亡くなってしまいましたが、介護に通ってくれていた末娘が離婚することになり、内藤姓に戻って孫たちとともに実家で暮らすようになりました。そのことから、高齢となった内藤さんは、末娘や孫たちを頼りに思うようになりました。
内藤さんにとって、3人の娘は同様にかわいいのですが、先妻との子である2人の娘と、後妻との子である末娘には距離があり、また、上の2人の娘たちからは、末っ子の娘をかわいがり過ぎるという不満を聞くこともありました。
「本当に、娘たちはどの子もみんなかわいいのです。ですが、ずっと専業主婦だった末娘が離婚することになってしまい、不憫で不憫で…。いまは慣れないパートを頑張っていますが、バリバリ働いている上の2人と比べると、本当に危なっかしくて見ていられません。将来を考え、財産はできるだけ末の娘に残してやりたいのです」
「末娘と孫たちが心配。財産を多く残してやりたい」
内藤さんは地元農家の出身で、広い一戸建ての自宅とアパートを所有しているほか、長年の勤勉な会社員生活により、それなりの預貯金もあります。
「3人の娘たちに平等に分けたい気持ちはありますが、妻の介護をしてくれた末娘に、自宅と墓を相続させて、祭司継承をしてもらいたいです」
内藤さんの希望を聞いた筆者は、税理士をはじめとする専門職のスタッフとともに、内藤さんの資産状況を精査しました。
その結果、末娘に自宅を相続させ、先妻の子である上の2人の娘にアパート1棟を1/2ずつ相続させれば、遺留分に抵触しないことがわかりました。
さらに計算したところ、小規模宅地等の特例を生かせばほぼ相続税もかからないと判明。預貯金のほうも、家を継承する末娘に相続させても遺留分に抵触しないため、内藤さんはその内容で遺言書を作成することにしました。
遺言書がなければ、さまざまなトラブルのリスクが…
今回のケースのように、子どものうちのひとりに祭司継承させたい、自宅を残したいといった希望がある場合は、遺言書によって親の意思を明確にしておく必要があります。そうでないと、先妻の子を含め、等分に相続権が発生してしまうことになります。
内藤さんが末娘に相続させる財産を特定しなければ、当然ですが、自宅を確実に残せない可能性が残りますし、すでに上の2人の娘から感情的な不満が出ている状態でもあり、遺産分割協議を行えば、対立が起こりかねません。
逆にいうと、相続させる財産を明確にしておけば、末娘へ自宅を残せますし、上の2人の娘には遺留分に配慮した財産を指定することで、遺留分侵害額請求を防ぐことができます。
資産状況を整理し、無事に希望通りの遺言書を作成した内藤さんは、
「安心しました。これで末娘と孫たちも、安心して暮らせます」
と、笑顔を見せてくれました。
きょうだい間に感情的な壁があるなど、円満な相続ができない不安がある場合は、やはり遺言書を準備しておくことが大切なのです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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