亡き夫には先妻の子が2人、後妻の自分には子がなく…
今回の相談者は、70代の近藤さんです。10年前に夫を亡くし、夫から相続した都内の戸建てにひとりで暮らしていますが、将来の相続について相談したいと、筆者の元を訪れました。
近藤さんには子どもがいませんが、亡くなった近藤さんの夫は再婚で、先妻との間に2人の子どもがいます。近藤さんと夫が結婚したとき、2人はすでに成人していたため、養子縁組はしませんでした。
そのため、近藤さんの相続人は、亡くなった実姉の子どもである、おいとめいの2人だけです。
夫が亡くなったとき、近藤さんの希望で自宅を相続しました。夫は遺言書を残しておらず、先妻の子どもたちと分割協議を行いましたが、かなり大変だったといいます。
「夫が存命のときはとくに問題なかったのですが、やはり実の親子ではありませんから…」
近藤さんは言葉を濁しました。夫が入院したとき、遺言書を書いてもらえばよかったと後悔したといいますが、具合の悪い夫に切り出すことができなかったのです。
「自宅は子どもたちに残したい」と口にしていた夫
夫は、自宅不動産を自分の子どもに残したいという希望を口にしていました。しかし、60代になってから、自分の住む家を先妻の子ども名義にして生活環境を一新するのは、現実的にも精神的にも、難しいものがありました。
話し合いの結果、子どもたちにもなんとか納得してもらい、近藤さん名義となった経緯があります。
近藤さんはその後、何度か筆者の事務所に相談に訪れ、税理士やFPといったスタッフとともに資産状況を確認・整理しました。そして70歳になったのをきっかけに、夫の子どもたちと改めて話し合いの席を設け、自宅不動産を夫の長男に遺贈する内容で公正証書遺言を作成しました。
「私自身、パートではありますが、70歳前まで働いてきました。いろいろと相談に乗っていただきましたが、そのなかで改めて財産を見直したところ、今後は年金と預金で生活できると思いました。主人の願い通り、自宅を子どもに渡せるようにできて、ほっとしています」
「家は遺贈、お金は残さない」との決断で今後が明確に
近藤さんは今後もいまの自宅に住み続けたいと考えていますが、自分のおいやめい、先妻の子どもたちに老後の面倒を見てもらうつもりはなく、また、面倒をかけることがないよう計画的に老後生活を送りたいと考えています。
「以前は、お金を使うことへの後ろめたさと、将来の不安に押しつぶされそうになってしまって、ずっと堂々巡りしていたのです」
「もしこれから、介護や入院が必要になったら、手元の貯金や年金、保険を使うつもりです。〈不動産は夫の子どもに返す、お金は自分のために全部使う〉と決意したら、将来の見通しも立ちましたし、なにより気持ちが楽になりました」
人生100歳時代、これまで財産は次世代につなぐことが重視されてきましたが、今後は「自分や家族のために活用し、残さない」という選択肢もあります。
財産は「残す」よりも「活用する」時代になりました。自分のため、家族のために「いま活用する」ことが大切なのだといえます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】