(※写真はイメージです/PIXTA)

兄の住まいの庭木のトラブルについて、きょうだいのもとに届いたクレームの連絡。「また長期間家を空けているのか」と苛立ちながら訪問したところ、自宅には白骨化した遺体が…。警察に連絡し、いわれるまま手続きを行ったものの、遺産の整理をどうすればいいのかわかりません。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

木の枝の越境で判明した、ひとり暮らしの兄の異常事態

今回の相談者は横浜市在住の高橋さんです。きょうだいが孤独死し、それに伴う手続きについて相談に乗ってほしいとのことでした。

 

高橋さんの両親はすでに他界していますが、独身の兄がいます。高橋さんは大学卒業後に結婚し、子どもを持ちましたが、独身の兄は両親が他界してからも実家でひとり暮らしを続けていました。

 

「兄とは昔からそりが合わず、親しい関係ではありませんでした。両親が他界してからは一層疎遠になりまして、10数年連絡をとっていなかったのです」

 

先日、兄が暮らしていた市の市役所から手紙が来ました。そこには、「○○区~(実家)の木の枝が越境しており、住民から苦情がきております。ご対処いただけないでしょうか」とありました。

 

「兄は自営業をしているのですが、若いときから貯金ができるとフラリと海外に出かけ、数週間から数ヵ月も帰国しない、といったことを繰り返していました。今回も同じパターンだと思い、イライラしながら実家に足を運んだのです」

 

高橋さんが実家に訪れたところ、玄関は鍵がかかっていましたが、一部の部屋の電気がついていました。しかし、チャイムを押しても声をかけても返答がありません。不審に思いながら、昔のように勝手口の鍵を開けて家に入ると、白骨化した遺体があったのです。

 

「びっくりして、すぐに警察に連絡しました。いわれるまま諸々の手続きを行いました。検案の結果、死因は不明ですが、1年以上前に亡くなったようだと…」

 

高橋さんは落ち着かない様子で「これからなにをすべきかまったくわかりません」「どうしたらいいのでしょう」と、くりかえし口にしていました。

孤独死も、死後の手続きは基本的に同じだが…

孤独死であっても、基本的な流れは変わりません。まずは下記の順番で着手していきます。

 

(1)遺品整理

(2)資産の確認

(3)相続登記

(4)空家になった実家への対処

 

(1)遺品整理 

 

まずは遺品整理です。資産の確認のためにも、通帳や書類を確認し、資産の状況を確認しましょう。実家を売却するのであれば思い切って業者にお願いするのも有効です。

 

(2)資産の確認 

 

資産の確認ですが、通帳や株券が見つかれば、銀行・証券会社に問い合わせをし、残高証明書を依頼します。もし海外に口座があればそちらも照会が必要になります。亡くなった方の財産を全て確認する必要があります。

 

資産の総額が、基礎控除額以上(3,000万円+600万円×相続人の人数)になる場合は相続税の申告が必要です。期限は相続発生を確認した日から10ヶ月以内です。今回のケースの場合、遺体を発見してから10ヶ月以内ということになります。

 

(3)相続登記 

 

実家の相続登記が必要です。売却する際には必ず必要なので、売却されない場合でも登記を行うことを推奨しています。

 

(4)空家になった実家への対処 

 

●実際に居住する

●アパート建築等資産活用を行う

●売却する

 

大きく分けて上記3つの選択肢が考えられます。注意しなければならないのは、告知義務がある点です。告知義務というのは、購入検討している方に対して、過去にこの物件で人が死亡していると告げなければならないというものです。

 

今回の孤独死は事件や事故ではありませんが、国土交通省公表の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」には、「自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、取引の対象となる不動産において、過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合においては、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられる」と記載があるので、告知しなければなりません。

 

自己利用するのであれば特段問題ありません。ただし売却する時はもちろんですが、ご実家を建て替えてアパートを建築した際にも、入居希望者に対して告知が必要です。賃貸借契約の告知義務の期間は3年です。

 

家族が孤独死したと知ったら、多くの方は冷静ではいられないでしょう。高橋さんのようにパニックに陥ってしまう場合も少なくありません。そのような事態が起こったら、まずはひとりで抱え込まず、第三者に相談を行うことをおすすめします。

 

近年では、筆者の事務所にも同様の相談が持ち込まれ、対応するケースが増えてきました。「核家族化」「非婚化」「多死社会」等の実情を見る思いです。

 

また、現実的な話として、葬儀の問題、お墓の問題、残された不動産の問題など、遺族の大きな負担となりかねない、解決すべき事柄が複数にわたって残ります。

 

ここで解決方法を誤ると、相続人の方の今後の人生にまで影響するリスクがありますので、その点をよく考慮して解決策を探ることが重要です。


 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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