(※写真はイメージです/PIXTA)

ある女性の実家は、都内繁華街の超人気エリア。父親は節税のためにビルへ建て直し、管理会社を設立したほか、敷地も家族が平等に相続できるよう分筆しました。しかし、ビルの竣工後、兄嫁が子どもを連れて強引に越してきたことから、事態が複雑化することに…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

実家不動産は繁華街のビル、相続後は地代も入るが…

今回の相談者は、都心部の繁華街に実家がある、60代の石川さんです。父親が亡くなり、遺産分割したことで資産状況が複雑化してしまい、解決方法を探しているということで、相談に見えました。

 

実家の土地は150坪の広さがあったため、石川さんの父親は節税対策として角地側の100坪に4階建てのビルを建て、1階から3階を賃貸に出し、4階を住居としました。また、不動産管理会社を作り、建物は法人で建設しています。場所柄テナントにも困ることはありません。

 

石川さんには4歳上の兄がいるのですが、ビル建築当時は他県に勤務しており、兄の家族は勤務先の近隣の社宅に暮らしていました。

 

石川さんもすでに結婚して家を出ていましたが、兄の居住地より実家に近く、高齢の両親のサポートはすべて石川さんが行っていました。

 

ところが、ビルが建った途端、兄嫁が2人の子どもたちを都心部で育てたいと主張。石川さんの兄を勤務地に残したまま、兄嫁と子どもたちだけで実家に同居することになりました。石川さんの両親はかわいい孫がそばに来るため大歓迎で、残りの50坪の敷地に建て増しを行い、最初のビルにつなげた店舗兼兄家族用住宅で同居を始めました。

 

当初、父親は相続対策として土地を6つに分筆し、自分が亡くなったときの分け方を決め、公正証書遺言を作成していました。

 

その結果、3つは母親・兄・石川さん単独名義、残り3つは、3人共有名義・母親と兄の共有名義・母親と石川さんの共有名義という、複雑な所有になりました。

 

それでも、父親が亡くなったあとには石川さんにも地代が入るようになりました。

 

その後、不動産管理の会社は父親から母親に代表者が変わりましたが、母親が80代になり、ビルの修繕工事などの交渉事が増えると、兄夫婦が会社を運営することになり、兄嫁が代表者になりました。これらすべて、石川さんには事後報告でした。

 

以降、兄夫婦は役員報酬を自由に決め、母親や石川さんの地代を下げ続けました。

 

「賃料が下がったわけでもないのに、どうして地代を下げ続けるのか、正直不満に思っています。でも、兄嫁はとにかく高圧的で、有無を言わせない雰囲気なのです」

 

しかも、地代変更等の通知は顧問弁護士から書類が届くだけで、兄や兄嫁からはひと言もありません。

 

「好き勝手に地代を下げて、黙って書類をよこして、あとは知らん顔なんて、あんまりではないでしょうか? この状態のままでは納得できなくて…」

 

石川さんは穏やかな口調ながら、静かに怒りを燃やしているように見えました。

共有状態を「第三者に売却」して解消

不動産の共有はトラブルのもとです。そのため、筆者は共有状態を解消することをお勧めしました。

 

不動産の共有の解消には、

 

(1)土地を分割して単独名義にする

(2)共有者と一緒に第三者へ売却する

(3)共有者に売却する

(4)第三者に売却する

 

など、いくつか方法はあります。

 

一番いいのは(1)ですが、今回の場合、法人の建物が敷地全体に広がっており、しばらくは不可能です。(2)(3)は兄夫婦が反対とのことで、結果(4)が近道といえます。

 

父親は石川さんにも財産を渡したいという思いで土地を相続させたのですが、共有の土地だけでなく、単独名義の土地の上にも法人の建物が建っており、自由に使える状況はありません。多少の地代は入るものの、自分の財産といえるだけの価値がないのが実情です。

 

石川さんの家族も「そんな土地はいらないから、早く売ってはどうか」といっていることから、石川さんは心を決め、現在売却先と交渉中です。

 

自分名義でありながら自由がまったくない状況であることを考えれば、もはや財産の価値は半減しているといえます。だからこそ、共有状態を解消し、自由に使える「単独財産」にする必要があるのです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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