(※写真はイメージです/PIXTA)

会社を共同経営していた夫が、長年の療養の甲斐なく逝去。夫の財産は「配偶者の特例」で相続税が不要と思われました。ところがある専門家は、会社を切り回してきた妻の財産に目を止め、そちらも含めて夫の財産であり、申告が必要だと主張しますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

夫が逝去…「配偶者の特例」で納税不要のはずだが?

今回の相談者は、60代の遠藤さんです。会社を共同経営していた夫が亡くなり、相続について相談したいということで、筆者の元を訪れました。

 

遠藤さんの相続人は、同居する独身の長女、結婚して家を離れた長男、そして遠藤さんの3人です。

 

亡くなった夫の財産は、1階を事務所にした築古の自宅、夫の母親が暮らす建物、預貯金の、合計6000万円程度です。遠藤さんが相続して配偶者の特例を適用すれば、納税は不要です。

 

ところが遠藤さんの心配はそこではなく、「自分の預貯金」にあるといいます。

会社を回していたのは妻のほう、財産があって当たり前

筆者の事務所を訪れる前に、遠藤さんは長男が探した税理士と面談したそうです。そこで指摘されたのが、遠藤さんの預金と子どもの名義預金でした。

 

遠藤さん夫婦は、35年前に自宅の1階で製造業をはじめました。開業早々に大口の取引先をつかんだことから、当初は従業員を何人も使うほど高い利益を出していました。

 

しかし、開業から10年を過ぎたあたりで夫が体調を崩し、入退院を繰り返すようになったため、その後は遠藤さんがひとりで切り盛りできる程度にまで規模を縮小しました。

 

治療に専念したものの、夫の体調に回復の兆しが見えないことから、10年前に廃業。その後、自宅1階には使わなくなった機械類がそのまま残り、いまとなっては足を踏み入れることもありません。

 

廃業時、残ったお金は夫婦でほぼ半分にして精算しました。遠藤さんの夫は自分の預金から8000万円程度を出し、義母の住む家を4階建てのビルに建て直したため、夫が亡くなったときの預金は2000万円ほどでした。

 

遠藤さんは、25年の会社経営で得た役員報酬と清算金で、夫以上の預金を残しており、自分と子ども名義の預金に分けて所有しています。

 

相談した税理士は、遠藤さんの預金や子ども名義の預金も、ご主人の相続財産として申告する必要があると指摘したそうです。それが釈然とせず相談に来られたというのが経緯でした。

 

遠藤さんのお話の内容で判断するなら、体調を崩してあまり仕事ができなかったご主人に代わり、遠藤さんが会社を運営してきたわけですから、ご主人以上の預金を残していても不自然ではなく、説明がつきます。また、ご主人は義母の家に預金を使っていることで、預金が減ったことも明白です。

 

夫婦で会社経営をしていれば、当然ですが、収入は夫だけのものではありません。実情に合わせて判断をしていくことになります。

 

筆者は、遠藤さんと子どもの名義預金は遠藤さん自身の預金であり、ご主人の相続財産ではないため申告は不要と判断し、その旨を遠藤さんに説明しました。遠藤さんも納得し、「これでスッキリしました」と安どの表情を浮かべました。

 

遠藤さんは、これまでずっと仕事場の2階で寝起きし、とても窮屈な思いをしていたといいます。

 

「老後は、素敵な家で優雅に生活してみたい…」

 

打ち合わせのなかで、遠藤さんはポツリと本音を漏らしました。

 

遠藤さんから子どもたちへの相続時は、節税対策が必要です。そのためにも、遠藤さんに住み替えを提案しました。

 

遠藤さんはいま、自分好みのマイホームを手に入れるべく、長女と一緒に嬉々として物件巡りをしている最中です。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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