青天のへきれき…顔も知らない父の「相続」の知らせ
今回の相談者は、50代会社員の北村さんです。顔も知らない父親の相続の件で相談したいと、筆者の事務所を訪れました。
北村さんの両親は、北村さんがまだ幼いころに離婚しました。北村さんは母親に引き取られ、父親のいない家庭で育ちました。母親は実家に戻って祖父母と同居し、その後は再婚もせずに働きどおしでしたが、生活にはあまり余裕がなく、苦労したそうです。
「母親から父親の話を聞かされたこともありませんし、自分から尋ねたこともありませんでした。そのため、自分の父親がどんな人で、どこに住んでいるのかなど、何も知りませんでした。そのまま成人して、これまで過ごしてきました」
ところが昨年、北村さんのもとへ突然、司法書士から手紙が来ました。そこには、父親が亡くなったこと、父親には再婚した妻と子どもが2人いることなどが書かれていました。
そして、父親は遺言書を残しておらず、実子の北村さんも相続人として権利があること、遺産分割協議に協力してもらいたいとも書かれていたのです。
「同居している母親に相談したところ、離婚時には父親からの財産分与もなく、その後、養育費も受け取ったことはなかったというのです」
母親は、北村さんのしたいように対応すればいいといっています。そのうえで、どのように対応すべきか相談したいということでした。
法定割合の権利を「現金」で相続することに決定
財産の内容がわからないと判断できないため、筆者から北村さんに、司法書士へ確認するようお願いしたところ、財産の大部分は再婚した妻が住む自宅であり、あとはわずかな預貯金で、相続税の申告をする必要はないということでした。
相続人は後妻とその子2人と北村さんの4人となり、基礎控除は5,400万円です。
父親の財産は、自宅と預貯金、有価証券などで2,100万円ほど。そのうち自宅が1,600万円、預貯金200万円、有価証券300万円という内訳だということです。北村さんの権利となる法定割合6分の1を計算すると、350万円となります。
不動産を共有するメリットありませんので、現金で相続することが妥当でしょう。
とはいえ、父親の財産には預金が200万円しかなく、有価証券も非上場の同族会社のもので、結果、預金は200万円、葬儀などの費用に使うと残らない内容です。
北村さんは、これまで後妻や異母きょうだいの存在も知らず、突然のことでどのように受け止めたらいいのか、非常に戸惑ったといいます。
ただ、母親からも北村さんが好きに決めてよいといわれたということもあり、筆者からは、悔いが残らないように決断されることをお勧めしました。
「私はずっと、母親がひとりで苦労してきた姿を見てきました。恩返しの意味でも、母親と同居して老後を支える覚悟をしています。今回の相続は自分のためではなく、苦労した母親のために現金を相続させてもらおうと考えています」
そのようなお考えがあるのであればと、筆者からは、法定割合の権利を現金で相続することをお勧めしました。
父親の財産に預金がない場合、不動産を相続する後妻に「代償金」として自分の現金を出してもらう方法が取れますので、それによってめどがつきます。
それにより北村さんの気持ちが収まり、父親の後妻や異母きょうだいと揉めることなく遺産分割協議に協力していくことで、スムーズな手続きが可能になります。
ただし、これまでの状況を考えると、手続きはお互いに顔を合わせて行うのではなく、間に専門家を入れて会わずに遺産分割協議書を作成する方法を取るのがいいでしょう。
家族関係が複雑な場合、会わないことも重要な選択肢なのです。顔を合わせることで、過去の出来事や問題が再燃し、双方がいい感情にならないケースが少なくないからです。そのため、間に入る専門家の配慮が必要です。
相続は、長年の溝を埋める機会にはなりにくいため、最小限の傷で済ませるような配慮が重要なのです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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