(※写真はイメージです/PIXTA)

夫を亡くしたあと、子ども3人を育てながら仕事で成功を収めた女性はいま、子どもと孫に囲まれ、悠々自適のシニアライフを満喫中。そろそろ相続も視野に入ってくる年齢になりましたが、あるきっかけで交流が途絶えた長男家族のことがずっと胸に引っかかっています。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

子どもを3人育て上げ、家まで建てた母の「憂鬱」

今回の相談者は、70代女性の牧野さんです。子どもと孫への相続の件で相談したいと、筆者の事務所を訪れました。

 

牧野さんは30年前に夫と死別し、その後は必死に働きながら3人の子どもを育ててきました。商才があった牧野さんは、起業してビジネスを軌道に乗せました。健康に恵まれたことも幸いし、70歳になるまで元気に働き、都内の人気エリアに自宅を購入することもできたのです。いまは仕事の現場を離れ、悠々自適の生活です。現在は、長女とその子、二男と同居しています。

 

じつは、牧野さんは数年前まで長男家族と同居していました。孫も生まれて円満に暮らしていたのですが、長男夫婦がある占い師に心酔したことで対立が増え、長男家族と激しい諍いが起こりました。その後、長男家族は「母親の面倒は看ない」と言い残し、家を出てしまいました。牧野さんもこの一件で、長男との関係修復をあきらめることにしたのです。

自宅不動産は、いずれ同居の孫に受け継いでほしいが…

その後しばらくして、離婚した長女が孫と一緒に戻ってきました。また、仕事の関係で実家を離れていた二男も戻り、現在では子どもと孫の3人で牧野さんを支えてくれています。

 

牧野さんは、自分の財産は長女と二男に残し、その先、自宅不動産は同居する孫に受け継いでほしいと思っています。

 

「世田谷のこの自宅は、私の汗と涙の結晶です。長男家族と絶縁同然になり、どん底まで落ちていた私を癒してくれたあの子に、ぜひ相続してほしいのです」

 

二男は独身で結婚の予定がないこともあり、同居の孫へ確実に自宅を相続させる流れを作っておきたいのですが、すぐに遺贈するとなれば、まだ未成年の孫を相続の場面に引っ張り出すことになりかねません。そのため筆者は、まずは長女が引き受けることが妥当だとアドバイスしました。しかし、そのためには子どもたちへの遺産分割を遺言書で明確にしておくことが重要です。

 

いくら長男と交流が途絶えていても、法的には正当な相続人であり、法定相続分での相続の権利を保有しています。そのため、不動産の分割を指定しておかなければ、長男にも権利が発生します。疎遠であっても分割協議は必須ですし、話し合いがまとまらなければ、調停になってしまいます。また、二男がこのまま独身なら、二男の相続人はきょうだいとなるため、その点も注が必要です。

 

なお、遺言書を長女が自宅を相続する内容にしておけば、それが優先されます。また、長女の相続人はその子(孫)だけであり、きょうだいは関係ありません。長男には遺留分相当額を渡すことにしておけば、減殺請求もなく、トラブルのリスクを下げられます。

 

筆者から上記の内容を説明すると、牧野さんは安堵の表情を浮かべました。

 

「相続については、子どもたちへのいろいろな思いがあって、ずっと重たい気持ちでした。でも、これでスッキリしました」

 

円満な家族関係であっても、いざ相続になれば、遺産分割がまとまらないこともありえます。ましてや、わだかまりがあるならなおさらです。そのため、自分の意思を実現できて、子どもたちの諍いのリスクを下げる遺言書は不可欠だといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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