(※写真はイメージです/PIXTA)

事業を営んでいると、想定よりも売上が伸びなかったり、自分ではどうしようもできない突然の環境変化が起こったりして、資金繰りが悪化することがあります。資金繰りアドバイザーの田原広一氏が、事業を存続させるために知っておきたい知識を解説します。

融資を受ける最大のチャンスは「創業前」だが…

【事例:創業3ヵ月後に運転資金として300万円融資を受けた中華料理店】

「創業してみたものの、想定よりも売上が伸びず、手元資金が尽きてしまいそう…」。

 

そんな想定外の出来事が発生した際、創業後でも運転資金の融資を受けることは可能なのでしょうか。創業前と創業後では、どの程度、借りられる額が変わってくるのかも含め、事例を挙げて解説していきましょう。

 

原さん(仮名)は、中華料理店を創業して3ヵ月目。創業時には融資を受けなかったものの、店を開けてみたら、運転資金に不安を覚えたところから相談に来ました。

 

希望額は500万円。しかし、結果的に融資を受けられたのは300万円となりました。

 

■創業前と創業後では「融資の額」はこんなに違う

原さんのケースで、創業前と創業して数ヵ月経過したあとでの必要となるお金、融資を受けられる額の目安を比較してみましょう。

 

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<創業前に借りる場合>

●設備資金

 内外装工事 150万円

 備品50万円

 保証金100万円

 

●運転資金

 人件費・仕入れ・広告宣伝費等 300万円

 

⇒要な資金の合計額 600万円

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<創業数ヵ月後に借りる場合>

●設備資金

 既にOPENしているため0円

●運転資金

 人件費・仕入れ・広告宣伝費等 300万円

 

⇒必要な資金の合計額300万円

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金融機関は使用用途が明確な資金しか貸してくれません。創業前や創業直後であれば、設備資金という名目で融資を受けられたのが、数ヵ月経ってしまうとすでに設備資金は、使用してしまっているため、借りられる金額も少なくなります。

 

原さんも創業前であれば500万円程度の融資を受けられる可能性はあったものの、運転資金として借りられる金額の目安は月商の2~3ヵ月分程度になります。創業から時間が経過してしまうと、お金を借りることができても、創業当初に支出している設備投資の分、減額されてしまう可能性が高いことを覚えておきましょう。

経済危機や災害対応に頼れる「公的な信用保証制度」

事業を営んでいると、自分ではどうしようもできない突然の環境変化で資金繰りが悪化することがあります。2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大は、まさに典型例です。

 

こうした突発的な資金需要にこたえるため、国では公的な信用保証制度を用意しています。「セーフティネット保証」と「危機関連保証」です。これらの制度では、地域の信用保証協会が80%から100%の保証をしてくれます。100%の保証を受けられれば、たとえ貸出先が倒産しても金融機関にはリスクがないので、危機によって業績が悪化している場合でも貸し出しのハードルは大きく下がり、融資を受けやすくなります。

 

しかも、すでに信用保証協会の保証付融資を受けている場合でも、融資限度額が別枠になります。一般保証での無担保融資の限度額は8000万円ですが、セーフティネット保証と危機関連保証でも、それぞれ同額の限度額が設定されており、要件を満たせば併用も可能です。

 

■経済危機や災害対応の「9つの特別枠」

セーフティネット保証は1号から8号まであり、危機関連保証と合わせると9つの制度があります。平時は利用できませんが状況に応じて利用できるようになります。コロナ禍ではセーフティネットの4号と5号、危機関連保証の3つの制度が実施されました。5号の保証は80%ですが、4号と危機関連保証は100%の保証を受けられます。

 

1号:連鎖倒産防止

2号:取引先企業のリストラ等の事業活動の制限

3号:突発的災害(事故等)

4号:突発的災害(自然災害等)

5号:業況の悪化している業種(全国的)

6号:取引金融機関の破綻

7号:金融機関の経営の相当程度の合理化に伴う金融取引の調整

8号:金融機関の整理回収機構に対する貸付債権の譲渡

危機関連保証制度(大規模な経済危機、災害等による信用収縮への対応)

 

さらに、日本政策金融公庫など政府系金融機関も、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」という制度を実施しました。売上高が5%以上減少などという要件がありますが、こちらも一般の融資とは別枠で8000万円の上限が設定されています。

 

しかも、運転資金であれば返済期間は15年と長く、返済しなくてもよい据置期間は最大5年です。しかも、金利も6000万円までの範囲で、融資後3年目までは基準利率からマイナス0.9%に設定され、さらに3年目までは要件を満たせばその利子がキャッシュバックされて実質無利子になるなど、非常に有利な条件で融資を受けられます。

 

融資を受けられる上限額も、平時であれば月商の3倍程度ですが、コロナ関連の融資では固定費の1年分程度まで借りられている人がいます。たとえ1年間売上がゼロであっても、固定費だけはなんとか支払っていけるよう配慮がなされていたと考えられます。

 

こうした制度はコロナ禍による経済危機だけでなく、何らかの理由で一時的な資金繰り難が生じたときに実施されます。自然災害が起こった際は、被害を受けた地域限定で実施されることもあります。

 

危機により資金繰りが悪化したときはもちろん、それほど大きな被害を受けていない場合でも、そのあとは何が起こるか分かりません。手元のキャッシュを手厚くしておくに越したことはないので、利用できる場合は積極的に利用するのがよいでしょう。

 

何らかの危機が生じてこれらの制度がスタートすると、金融機関はその対応に追われるので、スピーディに行動して一刻も早く資金の手当てをしたいものです。

 

 

田原 広一

株式会社SoLabo 代表取締役

 

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※本連載は、田原広一氏の著書『賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣

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田原 広一

幻冬舎メディアコンサルティング

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