(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢となった母親の気がかりは、同居の独身長男です。病気がちの両親を気にかけ、結婚もせず、献身的に尽くしてくれましたが、不平不満を一切口にしません。一方、既婚者の二男は、父親の相続時にあれこれと口を挟むなどの振る舞いがあり、母親は自分亡きあとの長男が心配です。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

親の介護・看病のため、独身のまま同居を続ける長男

今回の相談者は、80代女性の高野さんです。ふたりの息子への相続について相談したいということで、筆者の事務所を訪れました。

 

高野さんは20代で結婚し、2人の息子に恵まれました。しかし、高野さんの夫は40代に病気が発覚し、その後は介護が必要になり、面倒を見ていた高野さんも、50代で体を壊してしまいました。夫は3年前に亡くなりました。

 

長男は病身の両親の面倒を見るため結婚の機会を逃してしまい、いまも独身です。仕事はIT関係の自営業で、自室を仕事場にしています。

 

二男は大学卒業後に独立し、結婚して以降は自分の家族中心の生活を送っており、ほとんど実家に顔を出しません。

 

「3年前の夫の相続のときです。家族関係は円満でしたので、夫は遺言書の心配などせずに亡くなりました。私はあまり体が動かないものですから、長男が中心になって手続きをしてくれたのですが、二男夫婦が長男にピッタリとついて回り、横からずっと口をはさんでいるのです。長男はイヤな顔を見せず、都度対応していましたが、そのせいで手続きにはすごく時間がかかってしまいました。夫が亡くなったあとに、こんなことがあるとは思いませんでした…」

 

高野さんは、もし自分が亡くなったら、長男は相続で大変な思いをするのではないかと不安を感じているといいます。高野さんの資産は、夫から相続した都内の戸建て住宅と、自分の親から相続した2000万円程度の預貯金です。

 

「自分の体調もいいとはいえず、私たち夫婦のせいで不自由をさせてしまった長男が心配なのです」

きょうだい間の紛争を回避するため、遺言書の作成を

親がいなくなれば、当然ですがきょうだい2人だけになります。穏やかで物静かな兄が、自己主張の強い弟を納得させられるかわかりません。また、3年前の夫の相続手続きを考えると、長男の生活と仕事の拠点である実家を売却し、等分に分けることを主張するなど、揉めごとになるかもしれません。

 

「負担をかけた長男には、できるだけ多く財産を渡したい。自宅も残してやりたいのです」

 

そばにいた長男も、離れて暮らす二男も、法的には相続の権利は同じですから、二男から2等分を主張されれば、長男は自宅を売却しなければなりません。したがって、高野さんが希望するように、長男に多く相続させるには、その理由を明示しておかなければなりません。そのことからも、遺言書は必須だと筆者は説明しました。

 

また、高野さんの長男は独身です。相続トラブルで二男と決裂すれば、頼れる親族はいなくなり、なにかと将来の不安も生じてきます。きょうだい関係を維持するためにも、遺言書は有益なのです。

 

「わかりました。遺言書を作成して、長男に実家を残してやりたいと思います」

 

親の意思を遺言書として残しておくことは、最良の説得材料です。付言事項に分割の理由を記載しておけば、二男の納得度も変わってくるといえます。
 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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