(※写真はイメージです/PIXTA)

ショッピングモールを「大きな賃貸スペースのある有形資産」と捉えるのをやめて、「デジタル世界と実世界の両方に切れ目なく広がる無限のプラットフォーム」がそこにあると考えてみよう。そこにショッピングモール復活の道が開けます。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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    他の場所では味わえない体験を作り出す

    ■新しい収益モデル

     

    実店舗をメディアチャネルに移行させると、誰もが気になるのは賃料の仕組みだ。そう時間もたたぬうちに、ショッピングモール業界で、新たな収益モデルを策定することになるだろう。運営側があえて変えたくて変えるというよりも、そうせざるを得なくなるわけだ。オンライン販売が支配する世界がまもなくやってくる。すると、テナントの賃貸契約は、従来の販売指標や賃貸借条件だけで締結できなくなる。

     

    多くの小売業者が顧客獲得を目的に実店舗スペースをメディアとして維持するようになれば、ショッピングモール運営サイドは、各ブランドに対する消費者のインプレッションの価値を把握しなければならない。正直なところ、ショッピングモール運営会社にとって、消費者インプレッションこそ、最も価値ある資産のはずなのだが、その金銭的価値を評価しようという動きが皆無に近いのである。

     

    そこで必要になってくるのが、新たな算定方式だ。ショッピングモール内のテナントである各小売業者が、どのくらいの消費者インプレッションを獲得しているのか、どうやって調べるのか。テレビ界が参考になる。アメリカならNBCやCBSといったテレビ局は、視聴者の数や年齢構成・属性、番組別に適した放送時間帯を把握している。

     

    これと同じように、ショッピングモールも、来店客の属性をきめ細かく把握し、それに合った小売り版の“番組編成”になるように配慮する必要がある。さらに重要なことがある。ショッピングモールは、来店客に「また来たい」と思ってもらえるような、新しい理由を生み出すスキルが必要になる。

     

    ■FOMOの拠点へ

     

    人類史上最強のマーケティングツール、マーケティング施策がある。それが「FOMO」だ。「fear of missing out」(自分だけ取り残されることや何かを見逃すことへの恐怖感)の頭文字を取った言葉である。FOMOは、顧客インセンティブ(意欲刺激策)として見ると、効果も確実性もダントツなのだ。

     

    ミレニアル世代(1980年代序盤から1990年代中盤までに生まれた世代)を対象にした調査によれば、何らかの体験から自分だけが取り残されることに不安を覚えるとの回答は70%弱に上った。もっともなことだ。

     

    今の時代は、ほぼ何でも無制限に、オンデマンドで時間に縛られることなく手に入るし、何でも大量に生産されているような世の中だ。それだけに、自分が何かを見逃したり、取り残されたりしていると感じたら、いてもたってもいられないのではないか。

     

    ショッピングモールの役割は、そういうひとときやイベント、出演、ショーの機会を生み出すことである。しかも、うっかり見逃しかねない余地を意図的につくり、「がっかり感」を煽るのだ。タイミングや運がよければ遭遇できるような独創的なエンターテインメントや感動の瞬間を用意することで、「何としても見なきゃ」というファン心理を刺激するのだ。イベントを体験できるチャンスに何らかの制限をかけることで、FOMOの火にさらに油を注ぐことになる。

     

    改めてまとめると、ショッピングモールの役割とは、ほかの場所では味わえないような何かを創り出すことであり、そのためには豊かな創作力が求められるのだ。

     

    ■万華鏡のように多彩な味わいを

     

    最近人気の恋人探しのアプリをご存じだろうか。スマートフォンの画面に1人の候補の写真が大きく表示され、興味がなければ画面を払いのけるように左にスワイプして(右にスワイプすれば興味あり)却下する。すると、次の候補が表示される。そんな単刀直入な操作がすっかりおなじみになったが、今の時代は、まさにパッと見て興味がなければ即座に〝左スワイプ〟されてしまう。


    インターネットの登場以降、私たちの脳は、もっと違うもの、もっと新しいものを際限なく期待するのが当たり前になっている。いや、渇望すると言ったほうが正しいかもしれない。

     

    インスタグラムでは、アカウントからアカウントへと際限なく漂いながら、気に入った写真があれば、「いいね」を残していく。フェイスブックでは、膨大なフィード(友達が投稿した近況や写真など)を高速にスクロールしながら、何か目新しいことがないか探している。ネットフリックスでは、新しい映画が果てしなく並んでいる。

     

    そういう生活に慣れてしまった私たちが、ショッピングモールで代わり映えのしない200軒のテナントの前を通り過ぎるとき、何とも気が重くなる。どの店も似たようなものを売っていて、売り方も大差がない。ずっと昔から同じである。

     

    実店舗が抱えている課題とは、インターネット出現以来、私たちがいつのまにか期待するようになってしまった目新しさとか多様性に対抗することなのだ。このため、ショッピングモールは、物販にせよ、エンターテインメントにせよ、飲食にせよ、体験にせよ、もっと多彩で常に新しさを追求していくような設計にしなければならない。

     

    同じく、テナントスペースも、短期賃貸やポップアップストア出店の推進、イベント、マーケットプレイス型のコンセプトなどを取り入れて、自由自在に変更できるように設計する必要がある。ショッピングモール全体としては、4.6週間の周期で見た目や雰囲気、BGMやサウンド効果、匂いや香り、活動をがらりと変え、地元の人々が常に訪れたくなる理由を作り出すべきだ。

     

    ヨガウェアのルルレモンやリーバイスといった有力ブランドに出店してもらって困ることはひとつもないが、それがあるだけでは、「このショッピングモールを常に訪れたい」という理由にはなりにくい。誤解のないように言っておくが、ブランドの問題ではない。むしろ、どちらも有力ブランドである。ただ、ブランドの力だけで客足は維持できないのが、現実なのだ。結局のところ、ショッピングモールの成否を最終的に決めるのは、運営会社自体の創造力や独創性にかかっている。

     

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    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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