(※写真はイメージです/PIXTA)

歯列矯正の「治療期間の短縮」を模索し始めた歯科医師の前に一人の患者が現れました。「なるべく早く治療を終えよう」と、必死の思いである患者に向き合ったといいます。歯科医師の成田信一氏が著書『自分で考え、やり抜く子の育て方』(プレジデント社)で解説します。

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胃がん患者が矯正治療にやってきた

■一人の学生患者さんとの出会い

 

1999年に開業した私は、しばらくは一般的な矯正治療をしていましたが、2004年くらいから「短期間の治療」を模索し始めました。

 

そして「より短い期間で、よりクオリティの高い矯正治療を」という思いを強くするきっかけとなったのが、ある大学生との出会いです。

 

2006年の秋、千葉で診療している先輩矯正歯科医から、一人の男子学生を紹介されました。彼の住まいが私の医院の近所だったのです。実は、彼はスキルス胃がんの治療を終えたばかりで、私のところであればラクに通院できるということでした。

 

当時大学1年生だった彼ががんの手術を受けたのは都内にある大病院だったというので、私はその担当医に確認を取ったところ、「彼の命は卒業まではもたない」とのことでした。であれば、できるだけ早く治療してあげなくてはなりません。

 

実は当時、私の中では、引き受けてよいのかという葛藤がありました。確かに治療期間を短くする研究はしているけれども、当時はその手法が確立していたわけではありません。実際どのくらいの期間になるか確証も持てません。

 

意を決して引き受けることにしましたが、従来型の治療で2~3年かかっていたら、彼は残りの人生のほとんどを、矯正装置をつけて過ごすことになってしまいます。ですから、「なるべく早く治療を終えよう」と、必死の思いで彼に向き合いました。

 

毎月1回、来院してもらい処置をするのですが、私の勉強不足もあり、今考えると、大したことはできていなかったと思います。「治療期間を短くしなくては」との気持ちは常に持ち続けていました。

 

現在は、JETsystem という私が開発した短期間での治療を可能にする治療法がありますが、当時はまだ開発途上で、いろいろと試行錯誤を続けました。それまでの患者さんで効果があったことを試しながらも、その治療が彼に本当によいのかもわかりませんでした。

 

しかし幸いなことに、3カ月目くらいに行った「顎間ゴム」という、歯の上下にゴムをかける方法が彼に合うことがわかりました。俄然経過がよくなり、1年ほどできれいな歯並びになったのです。

 

一般の方が見れば支障がないところまできたので、彼の余命を考え、その年の年末に装置を外しました。「笑うと八重歯が牙みたいになって嫌だったので、自然に笑えてうれしい」と本人も喜んでくれました。とても素直な好青年でしたから、私としても元気なうちに治療を終えられ、なんとか新しい年に矯正が間に合ったことに安堵しました。

 

彼が1年程度で装置を外すことができたのだから、他の患者さんでも外れるかなと思い、その後も治療を重ねていきましたが、全然外すことができず、彼がどうして早く治ったのかは、よくわかりませんでした。

 

そして、2009年7月にその男子学生の症例について学会発表したところ、「その症例、きちんと治っていないのではないか」「そんなに早く外していいのか」など散々に言われ、さすがの私もだいぶへこみました。

 

精神的な苦痛も伴い、「そうまでして、短期間での治療を追求する必要はないのではないか。従来の方法のままでいいのではないか」と、思い詰めるようになりました。そんなさなか、翌月の8月でしたが、男子学生のお母さんから手紙が届きました。

 

次ページ男子学生のお母さんからの手紙

※本連載は成田信一氏の著書『自分で考え、やり抜く子の育て方』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

自分で考え、やり抜く子の育て方

自分で考え、やり抜く子の育て方

成田 信一

プレジデント社

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