経営再建に向け疾走する、北海道の豆菓子店二代目社長。しかし、従業員からの「我々が作っている豆菓子って、名前が出ませんよね」「子どもに『お父さんが作っているお菓子はどこに売っているの』と聞かれました」という言葉に愕然。「我々は何のために存在し、何を大事にする会社なのか」――。そう考えたとき、見えてきたものがありました。

「これまでの事業モデルを、根本的に変えたい」

問題は、売り上げへの影響です。人や資金は限られています。すでにOEMで手一杯になりかけていることを考えると、自社ブランド商品に力を入れるなら、OEMを減らさなければなりません。2度目の赤字からようやく脱却したばかりです。赤字脱却はOEMのおかげですし、脱却以後も売り上げが順調に伸びています。

 

この成長の道を自ら外れて、自社ブランドの商品開発に舵を切って良いのかどうか考えました。その答えを見つけるために、私は今一度、会社を取り巻く環境について整理することにしました。OEMはありがたい仕事でした。OEMをきっかけにして売り上げが増えただけでなく、菓子作りの技術も向上しました。

 

ただ、経営者目線で見れば良い仕事なのですが、そのせいで社員は忙しくなり、疲れています。つまり、私が求める成果と従業員が求める成果がそもそも合致していないのです。従業員のことを第一に考えるなら、OEMを減らすことが正解のように思えます。

 

うまく自社ブランドの商品を作り出すことができれば、従業員のモチベーションが高まります。やりがいが感じられないまま、ただただ疲れるだけの日々は一刻も早く終わらせて、会社の名前を冠した商品を作ることで充実感を感じてほしいと思いました。

 

そのような毎日のなかでなら、きっと従業員たちは、これまでとは違う「達成感のある疲れ」を感じられると思ったのです。

 

また、OEMには課題もありました。それは、注文者であるメーカーによって封入や梱包の指定が異なり、その指示に対応することによって現場作業が複雑化していることです。

 

納品に関しては独自の基本ルールがあります。しかし、OEMは相手あっての仕事ですので、「このメーカーにはこの方法」「あのメーカーにはあの方法」といった例外ができていきます。一つ二つならまだしも、例外が何個も増えるとルールは機能しません。結果、我が社らしいものづくりを確立できなくなってしまいます。

 

また、OEMは下請け仕事ですので、注文者の動向に影響を受けます。中国製品や本州メーカーの商品が増えたとき、問屋経由の注文が激減したことからも、そのリスクの大きさは実感していました。それが下請けの宿命といえばそれまでですし、中小企業は下請けが多く、売り上げ増減のリスクを承知のうえで、注文が来るのを待つ方法も王道です。

 

しかし、私はその事業モデルを根本的に変えたいと思っていました。注文を待ち、言われた通りに作るやり方を変えない限り、今後も市場や注文者の状況次第で、3度目、4度目の赤字転落が起きると考えたのです。それを避けるには、自立するしかありません。

 

自社ブランドを作り、自社商品を軸とする経営に切り替えれば、外部要因の影響は小さくできます。そこまで考えて、私は自社ブランドを作る道を選ぼうと決めました。

 

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小さな豆屋の反逆 田舎の菓子製造業が貫いたレジリエンス経営

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池田 光司

詩想社

価格競争や人材不足、災害やコロナ禍のような外部環境の変化によって多くの中小企業が苦境に立たされています。 創業74年を迎える老舗豆菓子メーカーの池田食品も例外ではなく、何度も経営の危機に直面しました。中国からの…

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