主力商品の「バターピーナッツ事業」大幅縮小へ
新商品はできず、新規事業も立ち上がらず、焼カシューとタマゴボーロの売り上げも伸びません。そんな中、バターピーナッツの売り上げ低迷がいよいよ深刻化します。着々とシェアを伸ばしていた中国製のバターピーナッツが、90年代に入り、急速に市場に普及するようになったのです。
中国製バターピーナッツの強みは、圧倒的な安さです。この時すでに、私の会社のバターピーナッツが1キロあたり600円ほどであるのに対して、中国製バターピーナッツは200円台になっていました。3分の1の価格では太刀打ちできません。飲食店も問屋も、味がそこまで変わらず、価格が3分の1なら中国製バターピーナッツを選ぶはずです。
こうなった以上、選択肢は一つです。完全撤退を見据えたバターピーナッツ事業の大幅な縮小です。圧倒的な差がついたことにより、私の会社には、バターピーナッツ事業を諦め、別の市場で、別の商品を武器にして戦っていく道しか残されていなかったのです。
価格をさらに下げて中国製バターピーナッツと勝負を続けるという選択肢は現実的ではありませんでした。
価格競争は体力勝負です。中国の大規模な生産体制を見た経験を踏まえると、世界の工場として頭角を現し始めた中国と、北海道の中小企業では勝負になりません。
また、価格を下げるには、仕入れ先、取引先、生産工程などをゼロから見直す必要があります。多少の差であれば改善や工夫で対応できますが、価格を3分の1にするためには抜本的な改革が求められます。
仮にあらゆることを見直し、価格を3分の1まで落とすことができたとしても、中国製バターピーナッツはさらに安くなります。この問題から抜け出さない限り、社の業績は悪化し続けます。儲からない事業にリソースを注ぎ続けることになります。
バターピーナッツ事業の大幅縮小は、ある面から見れば、売り上げを放棄する選択ですが、別の面から見ると、売り上げが減り続ける未来を避けるための選択でもあったのです。
バターピーナッツ事業の衰退は父の存命中から想定していたことですが、いざ撤退という選択肢を目の前にすると、悲しさと不安が膨らみました。
バターピーナッツは、かつて乾物商から生産業に鞍替えすることになった重要な事業です。工場で技術を磨き、営業は取引先を増やし、30年間に及ぶ試行錯誤によってゼロから事業を大きくしてきました。撤退は、この積み重ねを全て放棄するということです。これといった対策ができず、歴史ある事業を易々と奪われたのだと考えると、もう少し何かできたのではないかと自分が情けなく感じました。
しかし、落ち込んでいる場合ではありませんでした。感傷に浸っている暇があるのなら、早く次の手を打たなければ、会社の未来は暗いままです。
「やるしかない。決めるなら早いほうがいい」
そう考えて、私は気持ちを入れ替えることにしました。バターピーナッツに頼っていた父の時代の会社から脱皮して、心機一転、第2の出発をしようと決めたのです。
池田 光司
池田食品株式会社 代表取締役社長
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