本ニューズレターは、2022年4月1日までに入手した情報に基づいて執筆しております。
1. はじめに
近年、日本のスポーツ業界においては、DXを活用して新たな資金循環を生み出そうとする動きが顕著となっています。欧米を中心に、スポーツデータビジネス、スポーツベッティング、ファンタジースポーツ、Non-Fungible Token(以下「NFT」といいます)やスポーツトークンなどを活用したスポーツDX事業による新しい収益源と資金循環が生み出される中、日本においてもスポーツ産業を起点とする新たなエコシステムの形成を図ることを目的として、2022年1月31日にスポーツエコシステム推進協議会※1が設立されるなど、スポーツDX事業の活性化と市場形成に向けた動きが加速しています。
※1 http://www.c-sep.jp/wp-content/uploads/2022/01/Press-release.pdf
特に、NFTについては、2020年には400億円弱であった市場規模が2021年には4兆7000億円以上の規模となる※2など全世界で急速に市場が拡大しており、日本のスポーツ業界においてもNFTの活用に注目が集まっています。
※2 後述するNFTホワイトぺーパー3頁。
欧米では、NFTを活用したスポーツビジネスが急速に発展していますが、その中でも注目を浴びているのは、米国のDapper Labs, Inc.(以下「Dapper Labs社」といいます)が提供するNBA Top Shotと呼ばれるサービスです。
NBA Top Shotでは、Dapper Labs社がNational Basketball Association(以下「NBA」といいます)に所属する選手のプレー動画等のNFTをランダムに含めたパッケージを販売した上で、併設した二次流通市場におけるユーザー相互間の取引から手数料を徴収しています。二次流通市場では人気選手のスーパープレー動画のNFTほど高額で取引されており、最も高額なものになると、例えば、レブロン・ジェームズ選手のダンクシュート動画は、20万ドル(約2200万円)以上の価格で取引されています。
その結果、2020年7月頃のサービス開始から本ニューズレター作成時点までで、一次流通市場における総売上は1億4200万ドル(約156億円)、二次流通市場における累計取引総額は9億6230万ドル(約1059億円)にまで達しています※3。当該サービスを通じて、Dapper Labs社が支払うロゴや肖像権利用の対価がスポーツ団体や選手に対して還元される仕組みとなっており、このような新たな資金循環は、スポーツ団体・選手にとって貴重な収益源となる点において重要視されています。
※3 https://www.flowverse.co/applications/nba-top-shot
しかしながら、日本においては、NFTのパッケージ販売を含むランダム型販売と二次流通市場が組み合わさった場合に賭博罪(刑法185条)が成立するのではないかとの懸念が示されることが少なくなく、スポーツコンテンツを活用してNBA Top Shotと類似するサービスを日本国内で提供することまでは躊躇している事業者が多い状況にあるといえます※4。
※4 例えば、パシフィックリーグマーケティング株式会社は、2021年12月に株式会社メルカリと共同で「パ・リーグ Exciting Moments β」の提供を開始し、選手動画等のNFTを販売しています。また同様に、株式会社横浜DeNAベイスターズは2021年11月に「PLAYBACK 9」、株式会社博報堂DYメディアパートナーズは2022年2月に「PLAY THE PLAY for J.LEAGUE」、DAZNは2022年3月に株式会社ミクシィと共同で「DAZN MOMENTS」の提供を開始しています。これらのサービスでは二次流通市場を併設予定とするものの、現状NBA Top Shotと類似するサービス提供には至っていません。
そのような中、2022年3月30日に、自由民主党デジタル社会推進本部「NFT政策検討プロジェクトチーム」※5から、「NFTホワイトペーパー(案)~Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略~」(以下「NFTホワイトペーパー」といいます)が公開されました※6。
※5 本ニューズレター執筆者である平尾覚弁護士及び稲垣弘則弁護士は、自由民主党デジタル社会推進本部「NFT政策検討プロジェクトチーム」ワーキンググループのメンバーを務めています。
NFTホワイトペーパーは、「Web3.0」をデジタル経済圏の新たなフロンティアと捉えた上で、NFTをWeb3.0時代のデジタル経済圏を力強く拡大する起爆剤として位置づけています。その上で、「3.NFTビジネス発展に必要な施策」として「(1)NFTビジネスの賭博該当性を巡る解釈の整理」を挙げ、関係省庁において、NFTを利用した事業形態のうち、一定のものが賭博に該当しないことを明確に示す必要があるとの提言が行われています。
本稿では、NFTホワイトペーパーの提言内容について言及した上で、NFTを利用した事業の一例として、NBA Top Shotを取り上げ、これと類似するサービスを日本国内で提供した場合における賭博罪の成否について検討します。
2. NFTホワイトペーパーの提言
NFTホワイトペーパー「3.NFTビジネス発展に必要な施策(1)NFTビジネスの賭博該当性を巡る解釈の整理」においては、NFTを用いたランダム型販売と二次流通市場の併設に関する賭博罪の成否について、以下のとおり提言がなされています。
①NFTビジネスを促進する観点からは、事業者が新たなNFTサービスを展開する際に、賭博罪の成否について、関係省庁から事前に見解を求めることができる仕組みを整える必要がある。
②特に、NFTを用いたランダム型販売と二次流通市場の併設については、既に海外では同様のビジネスモデルが隆盛を極めていることを踏まえると、関係省庁において、少なくとも一定の事業形態が賭博に該当しないことを明確に示すべきである。
③なお、ランダム型販売や二次流通市場を利用してNFTを購入する消費者を保護する観点からのルール整備は別途検討を進めるべきであり、関係省庁の見解を踏まえた事業者におけるガイドラインの策定等が行われることが期待される。
NFTを用いたランダム型販売と二次流通市場の併設については、上記②において「少なくとも一定の事業形態が賭博に該当しないことを明確に示すべき」とされているとおり、賭博に該当しない類型が含まれているにもかかわらず、事業者に対して一律に委縮効果が生じてしまっていることが問題であり、これを明確にすることがNFTビジネスを活性化するために不可欠であると考えられます。
以下では、今後の議論のきっかけとして、NBA Top Shotのようなサービスが、賭博に該当しない事業形態といえるか否かについて検討します。