【関連記事】金融機関から「融資NG」にされやすい人の決定的特徴6つ
創業後は、金融機関に「試算表」を定期的に提出すべし
首尾よく創業融資を引き出し、さまざまな手続きも一段落がつくと、小さな会社や個人事業主は、とかく目の前の業務に忙殺されがちです。
そこで当初の目標の進捗度合をチェックし、融資の備えをしていくうえで習慣づけたいのが、信用金庫に試算表を送付することです。
試算表とは、日々の売上や仕入、経費などの取引が正しく帳簿に転記されたかどうかを月次でチェックするために作るものです。
決算期末になってから、取引の記帳のミスに気づいても、遡って間違いを発見するのは大きな作業負担となります。そこで月ごとに、試算表を作成し、途中経過が正しいかを確認するわけです。
税理士と年間顧問契約を結んでいる会社ならば、基本的に毎月、あるいは数ヵ月ごとに作成した試算表が送られてきます。もちろん自分でも、会計ソフトを使えば専門的な知識がなくても、比較的簡単に作成することができます。
試算表を定期的に送ることのメリット
試算表の提出先は公庫の融資を着金した信金でもいいですし、あるいはほかの金融機関でもいいでしょう。
なぜ頼まれてもいないのに、試算表を定期的に送る意味があるのでしょうか。
一つ目の理由は、定期的に情報開示をしておくことで、融資を受けられるチャンスが増えることです。
金融機関が中小企業の融資に及び腰になる理由の一つに、四半期ごとに決算発表を行う上場会社と違って、情報開示が不足している点が挙げられます。
特に中小企業は取引先も少なく、手掛ける事業も限られるため、ちょっとした外的要因により、業績が大きくブレるリスクがあります。
創業後3ヵ月の業績が好調でも、次の月には売上が急下降するようなこともまま起こり得るのです。
そこで、金融機関への“安心材料”として、年度(期)途中の財務状況、経営状況を開示する“プレ決算書”として、試算表を提示するわけです。
金融機関は、いい会社には積極的に融資をしたいと考えています。その融資提案のきっかけづくりとして、定期的に試算表を送付するのは有効な方法の一つなのです。
二つ目には、金融機関からの信頼感が得られることが挙げられます。
例えば決算時に数字を粉飾しているような会社は、年度途中の業績の推移はできるだけ明るみにしたくないと考えるはずです。定期的に数字を提示しておけば、金融機関としては最終的な決算との内容の整合性も取ることができ、“ガラス張りの経営をしている会社”というクリーンなイメージにもつながります。
ちなみに、すでに融資を受けている金融機関から、現状の業績を確認するために、「最近の試算表を提出してほしい」と言われることもあります。その際も速やかに提出できるよう毎月、試算表を作成しておけば、すでに付き合いのある銀行との信頼関係にもつながります。
三つ目には自社の経営状況の理解が深まる点が挙げられます。試算表を定期的に見る習慣がつけば、平均的な数字から大きく増えた科目や逆に減った科目などの変化、異常値も一覧で見ることができるため、いち早く会社の異変に気づくことができます。
数字に大きな増減・変動があったら、担当者に直接報告
試算表を提出する際には、チェックされるポイントについても押さえておきましょう。決算書のチェックポイントにも通じますが、特に途中経過として重視すべき項目は、
●売上債権の推移(特定の得意先からの回収が滞っていないか)
●仮払金・貸付金が増えていないか(役員貸付金が長く放置されていないか)
●借入金はどうか。返済は予定どおり行われているか。他行との取引状況はどうか
●売上、利益の季節変動、サイクルはどうか
などが挙げられます。
もし数字に大きな増減、変動があった場合には、銀行の担当者にその原因、今後の見通しなどを説明しておくのがベターです。
普段は郵送での送付で構いませんが、半年に一度、あるいは説明すべき事態が発生したときには、直接、担当者のもとに試算表を持参し、コミュニケーションを図っておくことも、長いスパンでお付き合いを継続していくうえで大事な作業です。
試算表や決算のタイムリーな報告が大事なことだと分かっていても、実際にやっている会社は少ないものです。差別化を図り、評価アップにつなげるためにもぜひ実践してください。
田原 広一
株式会社SoLabo 代表取締役
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】