裁判所は「契約時の建物の状態」によって義務を判断
上記のような賃借人側からの主張に対し、結論として、裁判所は、賃貸人の耐震改修の義務を否定しました。
その理由として、まず、賃貸人に課せられている修繕義務について、裁判所は、
・賃貸人は、目的物を賃借人に使用収益させる義務を負っており(民法601条)、目的物が契約によって定まった目的に従って使用収益できなくなった場合には、これを修繕すべき義務を負う
・この修繕義務の内容は、契約の時点において契約内容に取り込まれた目的物の性状を基準として判断されるべきであり、仮に目的物に不完全な箇所があったとしてもそれが当初から予定されたものである場合は、それを完全なものにする修繕義務を賃貸人は負わないというべきである。
と述べ、賃貸借契約の締結当時の建物の性状(もしくは契約で合意された性状)を基準として、修繕義務は判断すべきと述べました。
上記基準を前提として、本件建物が昭和43年築の建物であったとしても、
・本件建物はその建築当時の建築基準法令に従って建築されているものというべきであり、かつ現時点において要求される建築基準法上の耐震性能を有している必要はなく(既存不適格建築物)、さらに本件建物の建築年次は登記情報等により誰でも確認可能であって当該建物がどのような耐震基準を満たしているのかは借主側でも確認可能であったこと
・本件契約締結時に本件建物の耐震性能が特に問題とされた事情はうかがえないことからすれば、本件契約では本件建物の耐震性能につきその建築当時に予定されていた耐震性能を有していることが内容となっている
と述べ、賃貸人に修繕義務は存在しないと結論づけました。
なお、その他の賃借人側からの主張についても
「また、本件契約継続中に本件建物の利用にあたって具体的な問題が生じているわけではないことからすれば、現実に本件建物の耐震性能が低いことや、本件建物が多数の者が利用する事務所としての利用を前提としていることをもって前記判断がただちに左右されるものではない。なお、本件建物が高額な賃料で賃貸されているかについてはこれを認めるに足りる証拠はない。」
「さらに、耐震改修促進法6条は、特定建築物の所有者に対し、当該特定建築物について耐震診断をおこない、必要に応じ耐震改修をおこなう努力義務をさだめているにすぎず、改正宅建業法施行規則も修繕義務を直接に裏付けるものではないから、これらをもって修繕義務が認められるものでもない。」
と述べて、いずれも否定をしています。
この部分の判旨からすれば、裁判所が修繕義務を否定したのは、あくまでも「契約継続中に、本件建物の利用にあたって具体的な問題が生じていなかった」ということを前提とした判断とみられますので、もし具体的な問題(地震による建物の損傷で賃借人の使用に支障が生じた等)が発生していた場合は別の判断になるものとも考えられます。
注目のセミナー情報
【資産運用】5月8日(水)開催
米国株式投資に新たな選択肢
知られざる有望企業の発掘機会が多数存在
「USマイクロキャップ株式ファンド」の魅力
【国内不動産】5月16日(木)開催
東京23区×新築×RC造のデザイナーズマンションで
〈5.5%超の利回り・1億円超の売却益〉を実現
物件開発のプロが伝授する「土地選び」の極意