(※写真はイメージです/PIXTA)

5ヵ月余りに及ぶ交渉の末、賃貸借契約締結直前に「ドタキャン」されてしまったビルオーナー。借主へ損害賠償を請求することはできるのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

「会長の意向で…」借主が締結直前の"ドタキャン"

ビル・店舗などの商業用施設の賃貸借契約においては、正式に賃貸借契約が締結される前の段階で、賃借人からの申込後に、賃貸人と賃借人との間で契約締結に向けて時間をかけて交渉が行われ、契約締結に向けて準備を重ねるという段階を経ることがあります。

 

この間、賃貸人側では、賃借予定フロアの募集を止めて契約成立に備える等し、他方で、賃借人側では移転に向けての既存の賃借物件の解約手続を進める等、契約が成立することを前提としてそれぞれ準備を進めるということもあります

 

しかし、このような場合、正式な契約締結へと至る前に、どちらかの都合で一方的に賃貸借契約締結交渉が打ち切られてしまった場合には、打ち切られた側から、それまでの準備に要していた期間に発生した費用等について、たとえ「契約締結前」であったとしても、相手に対して損害賠償請求ができないか、という問題が生じます。

 

この点が問題となったのが、東京高等裁判所平成20年1月31日判決の事例です。

 

この裁判例の事案は、賃借人からの申込書が差し入れられ、賃貸することを前提として賃貸人側も対象フロアを募集対象から外し、申し込みから契約に向けての交渉期間も4~5ヵ月におよんでいて、契約の調印日まで決まっていたところ、その直前になって、賃借人候補者のグループ企業の会長の意向が変わり、契約締結に至らなかったという事案です。

 

この事案では、賃貸人側から、賃借人予定者側に対して、対象物件を募集対象から外した段階から契約拒絶時までの賃料予定額が損害であるとして裁判を起こしました。

裁判所はオーナーの主張を全面的に認める

この事案で、裁判所は、契約締結に向けての交渉過程を踏まえて、賃借人予定者側が契約成立前に一方的に契約交渉を打ち切ったことは、

 

契約準備段階における信義則上の注意義務違反があり、これによって賃貸人に生じた損害を賠償する責任がある

 

と判断しました。

 

また、損害額についても、基本内容について合意をした時から契約を拒絶した期間までについては、

 

本件確保部分を他に賃貸する機会を喪失したことにより同額の収入を得られなかったというべき

 

として、その間の賃料相当額を損害として賠償を認めました。

 

この事例は、賃借人側の事情で一方的に契約締結を拒絶したことについて損害賠償が認められたという事例ですが、逆に賃貸人側の事情で契約締結を拒絶した場合にも損害賠償が認められる場合もあります。

 

以上の通り、「契約が成立していない限り責任は負わない」ということにはなりませんので、賃貸借契約締結に向けて交渉が続いている場合に、一方的に契約を拒絶するという対応をする場合には、交渉の過程や契約交渉を打ち切ることについての正当な理由の有無などが無いかどうかなど、賠償責任を負わないように注意することが必要です。

 

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    ※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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