(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『企業法務ニューズレター(2022/3/22号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

3. 投資保護とその執行

この日ロBITは、2000年5月27日に発効しており、日本の投資家は、ロシアの行為(又はロシアに帰属すべき行為)が、対象となる日本の投資財産の保護に関する規定に違反する場合には、ロシアに対し、直接請求を行うことができます。以下では、そのような主張がどのような場合に認められ、どのように執行されるかについて説明します。請求の存在は、各事案の個々の事情に依存するため、以下の要約は一般的な指針にすぎません。各社の事情は、各事案の事実及びこれに適用される法令を踏まえて、個別に評価されなければなりません。

 

(1)投資保護

日本企業は、日ロBITの下で「投資家」に当たり、かつ、そのロシアに関する事業が「投資財産」に当たる場合にのみ、日ロBITが付与する投資保護に依拠できます。これらに該当するかどうかは、具体的な状況に左右されます。一般的に言えば、日ロBIT第1条は、「投資家」及び「投資財産」の定義につき制限的ではなく、日ロBITの発効以前に行われた投資、及び広範なカテゴリーの資産を含む、広範な定義を採用しています。

 

日ロBITの下で日本の投資家が依拠できる保護に関する2つの主要な基準は、日ロBIT第3条3項のいわゆる公正かつ衡平な待遇(FET)基準と、日ロBIT第5条の収用時の補償です。FET基準は日ロBITでは定義されておらず、各事案に広範に適用可能です。典型的にFET基準違反とされる国の措置は、例えば、(a)不合理、恣意的かつ差別的な取扱い、(b)安定的で予測可能な法的枠組みの提供の不履行、(c)透明性の欠如、並びに適正手続及び裁判拒否、(d)正当な期待の侵害です。補償が支払われるべき直接的又は間接的な収用に当たるか否かの基準も、過去の仲裁廷の決定によって大きく左右されるものであり、事案毎に分析されなければなりません。しかしながら、ロシアが予定している外国企業の資産の国有化は、日ロBIT第5条に含まれる可能性があります※7

 

※7 当事務所の藤井康次郎弁護士による日本語のコメント「対ロ経済封鎖、企業に試練」2022年3月12日付け日本経済新聞も参照。

<https://www.nikkei.com/nkd/industry/article/?DisplayType=2&n_m_code=035&ng=DGKKZO59029290S2A310C2EA2000>

 

(2)執行の仕組み

日ロBITは、ロシアに対する日本の投資を保護するだけでなく、権利が侵害された場合に日本の投資家がロシアに対する仲裁手続を開始する選択肢も含んでいます(日ロBIT第11条)。投資家は、仲裁を開始する前に、投資家とロシアとの間の「友好的な交渉を通じて」紛争を解決しようとしなければならず、また、国内の紛争解決手続を終了させなければなりません。友好的な交渉による解決がない場合、日本の投資家は、広く使用されているUNCITRAL仲裁規則又はICSID追加的制度規則に基づき仲裁を開始することができます※8

 

※8 ロシアはICSID条約を批准していません。

 

当職らの経験によれば、各国政府は、投資仲裁の存在と内容を公表することに消極的でした。そのため、投資仲裁が提起される見通しがあるだけでも、投資家にとって有利な和解につながることがあるかもしれませんが、現状のロシアの場合、楽観的すぎるべきではないでしょう。ロシアは、数多くの投資仲裁を提起され、不利な決定を受けてきました。ロシアは、自国に不利な仲裁判断には必ずしも従いませんが、日本の投資家は、原則として、いわゆるニューヨーク条約の締約国169か国すべてにおいて、ロシアに対する仲裁判断を執行することができます※9。日本の投資家が仲裁判断を現実に執行できる可能性は、ロシアに対する最近の制裁措置の結果、海外では相当のロシア資産が凍結されているため、凍結命令が出されている間に仲裁判断が執行される限り、大幅に高まっていると言えます。

 

※9 勝訴したドイツの投資家の努力に関する、娯楽にもなる役立つ説明として、Sedelmayer & Weisman, Welcome to Putingrad, The Incredible Story of the Only Man to Collect Monday from Vladimir Putin (2017)を参照。

4. まとめ

ロシアにおける日本人投資家の現状は厳しいと言わざるを得ません。ロシアでの事業を終了し、又は中断することについては、グローバル企業の明確な傾向に見られるように、十分な理由があります。他方で、地政学的な意味だけでなく、日本の安全保障とエネルギー資源に関する利害は、より微妙な評価を必要とするかもしれません。いずれのシナリオにおいても、現状の事業構造とビジネスパートナーを慎重に分析する必要があります。分析されるべき対象には、契約関係や、この状況で発生する可能性のある紛争も含まれます。

 

日ロBITは、ロシア市場から撤退する事業の外国資産をロシアが国有化するとの脅威が現実化した場合に、日本の投資家をさらに保護するものです。このトピックに関してより詳細な情報に興味がありましたら、当職らにご連絡ください。また、このトピックに関するより詳細な情報と、当事務所の投資仲裁プラクティスに関するご案内については、当事務所のセミナーもご覧ください※10

 

※10 N&Aリーガルフォーラムオンライン・投資仲裁ウェビナーシリーズ全4回。<https://www.nishimura.com/ja/seminars/LFO20210421.html>
 

 

弘中 聡浩
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

ラース・マーケルト
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

金子・友次 ベネディクト
西村あさひ法律事務所 弁護士

 

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弘中 聡浩
ラース・マーケルト
金子・友次 ベネディクト

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