(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『中東ニューズレター(2022/2/9号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2022年2月9日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

1. UAEにおける新会社法

アラブ首長国連邦(以下、「UAE」と言います)では、建国50周年を前に、重要法令の制定、改正が相次ぎ、商事会社法についても、2021年9月20日に既存の2015年商事会社法(以下、「旧会社法」又は「旧法」と言います)の全面改正を行う連邦法(Federal Decree-Law)2021年32号が出されました。全面改正された商事会社法(以下、「新会社法」又は「新法」と言います)は、2022年1月2日から効力を発しています。全面改正というものの、内容は、概ね旧会法と同様であり、実質的な変更は一部に留まります。商事会社法に基づき設立されている法人は、新会社法の施行日から、12ヶ月以内に、新会社法の内容に合わせて定款を変更する必要があり、期間内の変更を怠る場合、清算したものをみなされます(新会社法359条。以下、条文番号については、新会社法の条文を指します)。

 

なお、新会社法も、旧会社法同様、UAEに多数存在するフリーゾーン(以下、フリーゾーン以外の場所を「メインランド」と言います)に所在する会社には適用されません。日本企業の多くは、フリーゾーンに所在するため、今回の商事会社法の改正の影響を直接受ける日本企業は限定的です。

2. 外資規制

UAEには、株式会社と有限責任会社(Limited Liability Company : LLC)について、UAE国民持分が51%以上でなければならないという外資規制があり、商事会社法が根拠規定を有していましたが、2020年9月20日連邦法(Federal Decree-Law)26号により、旧会社法上の、外資規制は撤廃され、実務的にも、2021年6月から、一部の首長国や分野を除き外資100%によるメインランドでの株式会社又は有限責任会社の設立が可能になりました。

 

新会社法は、当該変更後の旧会社法の内容を承継しており、今回の改正による外資100%による法人設立への悪影響はありません。

 

なお、商事会社法上、例外的に外資規制が認められる事業分野として、内閣は、戦略的インパクトがある事業分野を指定する決定を出さなければならないとされており、旧法下では、①安全保障及び防衛事業並びに軍事的性質事業、②銀行、両替、金融会社及び保険事業、③通貨印刷事業、④通信事業、⑤巡礼事業、⑥コーラン学習センター事業及び⑦水産関連事業が、戦略的インパクトがある事業分野に指定されていました。

3. SPACとSPVの導入

新会社法では、特別買収目的会社(Special Purpose Acquisition Company : SPAC)(以下、「SPAC」と言います)と特定目的会社(Special Purpose Vehicle : SPV)(以下、「SPV」と言います)が導入されました。もっとも、いずれも定義されただけで、会社法の適用は除外され、別途定められる規則に服します。

 

新会社法上、SPACは、当局(Securities and Commodities Authority : SCA)(以下、「SCA」と言います)が、他の目的を有さない特定買収目的会社として分類することを承認した公開株式会社と定義されます。上記のとおり、SPACは会社法の適用を除外され、別途SCAが定める規則に従います。その後、SCAのSPACに関する規制枠組みが、2022年1月24日に承認されています。SPAC利用に関する世界的潮流にのるもので、中東湾岸諸国におけるSPAC導入はUAEが最初となります。

 

他方で、SPV、新会社法上、特定の資金調達業務に関連する義務と資産を、設立者の債務と資産から分離するために設立され、信用業務、借入、証券化、債券発行、並びに、保険、再保険及びデリバティブ業務に関するリスクの移転のために用いられる会社と定義されます。こちらも同様に、会社法の適用を除外され、SCAの定める規則に従います。

4. 有限責任会社に関する変更

UAEにおいて、有限責任会社は、商事会社法に基づく法人としては、外国企業にもっとも利用されている法人形態です。今回の会社法改正では、有限責任会社に関するルールについて、若干の変更がなされています。

 

(1)取締役会設置期間満了後の取締役の業務遂行義務の追加

新法では、取締役会の設置期間が満了し、再設置されない場合、取締役会の構成員は、6ヶ月を超えない期間、会社の事業運営を行わなければならず、総会は、当該期間の経過後直ちに、取締役会を設置しなければならないという条項が追加されました(85条4項)。

 

(2)監査委員会の設置要件の変更

旧法では、7名超の持分権者がいる場合に、3名以上の持分権者からなる監査委員会を設置することが求められていましたが、新法では、15名超の持分権者がいる場合に、設置が求められることになりました(88条1項)。旧法では任期の定めはありませんでしたが、新法では3年とされています(同)。

 

(3)法定準備金の減少

旧法下では、資本金の額の半額に達するまで純利益の10%を積み立てることが要求されていましたが、新法下では、5%に減少しました(103条)。

5. 公開株式会社に関する変更

日本企業の場合、UAE政府主催の事業のために設立が求められる場合を除き、株式会社の利用は基本的にないなど、総じて、UAEにおける株式会社の利用は多くありませんが、今回の改正では、公開株式会社(Public Joint Stock Company)について、例えば、以下のような変更がなされました。

 

(1)発起人による出資要件

旧法下では、公開株式会社の発起人は、株式の公募に先立ち、30%から70%の株式を引き受ける必要がありましたが、新法下では、そうした条件はなくなりました。

 

(2)株式の募集期間

旧法下では、10営業日から30営業日とされていた株式の募集期間について、新法下では、最大30営業日までの期間を目論見書に定めることができるようになりました(124条)。

 

(3)取締役会の欠員

新法では、公開株式会社の取締役会に欠員が生じた場合、30日以内に後任の取締役を任命する必要があるとされました(145条1項)。

 

(4)取締役の報酬

新法では、旧法同様、取締役が、会計年度における純利益の10%を超えない金額の報酬を受け取ることを認めています(171条1項)が、その例外として、定款で定める場合には、利益が出ない場合か、利益は出たものの、当該利益が不十分な場合でも、株主総会の承認があれば、取締役が、会計年度末に、AED200,000を超えない報酬を受け取れることを認めました(171条2項)。

 

(5)割引発行

旧法では、株式の発行について、株式の額面価格より高い金額によるプレミアム発行は認められていましたが、額面価格より低い金額による割引発行は認められていませんでした。新法下では、株式会社は、プレミアム発行のみならず、割引発行も認められるようになりました(198条)。但し、75%の特別決議とSCAの承認が必要です。

 

(6)株式の額面価格

旧法では、株式の額面価格は、最低AED1で、最大AED100とされていましたが、新法では制限がなくなりました。

 

(7)公開株式会社への組織変更に関する要件

旧法では、公開株式会社への組織変更にあたり、2会計年度内における資本金の10%の営業純利益を求めていましたが、新法では、不要となりました(276条)。また、旧法下では、公開株式会社への組織変更時に、公募できる株式割合の上限が70%とされていましたが、新法では制限がなくなりました。

 

(8)会社分割

新法下では、公開株式会社について、新設分割が導入されました(294条以下)。新法下では、公開株式会社の資産、負債、権利及び義務を、水平的に(分割前と同じ株主が、株式保有に比例して、新設会社の株式を直接所有する場合)又は垂直的に(親会社が、子会社を新設する場合)分割することができます。

 

 

森下 真生

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

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