戦後の高度成長が落ち着くとバブルになりました。バブルが崩壊して、資金が実体経済のほうに回らなくなってしまい、日本では実体経済が低迷したまま金融経済ばかりが拡大しているのです。それはなぜでしょうか。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

お金は自己膨張し、勝手に利益を求めていく

■金融経済が巨大になっている

 

戦後の高度成長が落ち着くとバブルになりました。突如、不動産価格や株価がどんどん上昇したのですが、これは高度成長の結果生み出された潤沢な資金をもとに、金融や資産運用(とくに不動産)で大幅な利益を上げるケースが急増したことが背景にあります。投資家や企業は勿論、一般庶民までが投資や消費に前のめりになり、景気が過熱したわけです。

 

過熱すると揺り戻しがあるのが世の常で、これは潰えていきました。いわゆるバブル崩壊です。バブルというのは崩壊してから「あれはバブルだったんだ」とわかるもので、当事者はイケイケどんどんだったのです。

 

バブルが崩壊して、資金が実体経済のほうに回らなくなってしまい、日本では実体経済が低迷したまま金融経済ばかりが拡大しているのです。これが、株価ばかり上がって景気回復の実感が乏しい理由のひとつです。資金が実体経済に行かなくなった理由はさまざまありますが、それは追って説明します。こういう状態が延々四半世紀続いています。日本経済の現状はそういうことです。

 

金融経済が膨張してきたのは、そう遠い昔の話ではありません。最初のきっかけは先に触れたドルと金の交換停止宣言、1971年のニクソンショックです。それから堰を切ったように金融の自由化が展開されました。それに拍車を掛けたのがIT化、グローバル化で、お金の移動がどんどん拡大化・簡素化されました。これがアメリカ主導で世界中に広がっていったのです。

 

例えば、一般庶民が自宅のパソコンを使って、ニューヨーク株式市場で株の取引ができるようになったのですから、金融市場が巨大化するわけです。

 

■お金の〝本能〟

 

先ほど経済の両輪は実体経済と金融経済であると述べましたが、現下は金融経済のほうが実体経済よりもずっと大きくなっています。

 

なぜかというと、実在するモノやサービスで構成される実体経済は資金、つまり元手がないと大きくなりたくてもなれないからです。どうにもならないのです。お金は儲かる見通しのある市場に行くものです。実体経済よりも巨大且つ成長している金融経済に向かうのは当然のことです。

 

一方で資金、つまりお金はある意味で自己膨張、つまり自分勝手に利益を求めて動いてしまいます。人間の欲望がそうさせるわけです。これは法で縛って規制していくしか方法はないと思います。

 

例えば、中国のような〝世界秩序を乱す自分勝手な〟国にはもうお金は貸さない。ドルとの交換も制限するというようなことです。中国経済は「ドルと人民元の交換」が土台になっています。

 

ただこれを実行したら、戦争のような状況になってしまいます。弾の飛び交わない戦争です。国の根幹に関係ある話ですから。

 

中国もずいぶん気にしています。だからこそ、人民元がドルのような基軸通貨になって、通貨覇権を握りたいわけです。ただこれは軍事力でアメリカを圧倒するよりずっと難しい。

 

アメリカは第一次世界大戦、第二次世界大戦と勝って、覇権国に上り詰めたのです。とくに第二次世界大戦は事実上アメリカだけが勝ったようなものです。ヨーロッパは焼け野原となり、ソ連も戦死者数がとてつもなく多かった。戦勝国とはいえ、疲弊した国ばかりだったからです。

 

そのためドルが世界の基軸通貨として確立されたわけです。だから、いま世界の経済を牽引している金融市場もドルが中心、ドル建てで動いています。そして先に触れましたが、モノの市場もドル建てで取引されています。小麦、砂糖、綿花、羊毛など国際商品市場や原油、鉄鉱石などの市場です。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、集委員兼論説委員

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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