戦後の高度成長が落ち着くとバブルになりました。バブルが崩壊して、資金が実体経済のほうに回らなくなってしまい、日本では実体経済が低迷したまま金融経済ばかりが拡大しているのです。それはなぜでしょうか。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

【関連記事】「タワマンを7000万円で購入した夫婦が…」銀行支店長の本音

金融経済の規模が拡大していく理由

■経済には実体経済と金融経済がある

 

現代の経済というものを考える際に前提にしなければならないのは、実体経済と金融経済(または資産経済)があるということです。まずは実体経済なのですが、これはGDP―国内総生産。一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額のこと―に直結していて、モノとサービス、そして人が動く世界です。

 

もうひとつの金融経済、こちらのほうはまだ経済学が全容を解明していない部分で、資産市場において動きます。例えば株式が該当します。株式はいわば企業にとってみれば借金です。元本(株価)は払う必要はないけれど、配当はしなければなりません。株式市場では元本が変動して、どんどん上下して、それが投資家同士で売った、買った、得した、儲けた、損したという話になるわけです。

 

そして債務、借金をしての投資です。つまり債務の市場ということになります。これは国債、企業の社債、諸々の証券類があります。

 

要するに借金をそのまま商品にしているわけです。そのことによって栄える市場です。とくに金融市場の要になるのが国債です。なぜかというと、国債はその国の政府が最終的に払う、つまり返済するものだからです。その返済の根拠になるのは税金です。国民の税金で返済できるから、これは投資側からすると、非常に損失のリスクが低い「安全資産」という評価ができるのです。

 

だから、金利(利回りといいます)が安定するわけです。そして基本的には低い金利になります。要するに買い手がきちんとつくわけですから。それゆえ高い金利にしなくてもよい、借金する政府から見れば非常に安定した債務の手段ということになります。

 

この金融経済は資産市場を中心にお金がグルグル回っています。そしてそこからお金が実体経済に入ってきて、設備投資や雇用に活用され、利益を上げたらまた金融経済へ出ていくという関係にあるわけです。だから、実体経済こそがGDPであるといえます。繰り返しますが、ここではモノとサービスが動きます。

 

金融経済、最近は規模がどんどん大きくなっていますが、これは金融市場が大いに自由化されてきたことによります。とくに戦後でいえば、1971年にアメリカが金とドルの交換を打ち切った(「ニクソンショック」と呼ばれます)ことが大きかった。要するにドルが金のくびきから外れて、自由に発行できるようになったのです。

 

そこに至るまでの経緯を説明します。

 

1944年、アメリカのブレトンウッズで国際会議が開かれました。この会議で「世界銀行」と「国際通貨基金(IMF)」の設立が決定されたのですが、ある国の外貨準備高が減って、輸入の支払いができなくなった際に、IMFから資金を貸しだすようにしたのです。さらにIMFには為替相場を安定させることも求められました。先の大戦が起きた理由のひとつに、過度に通貨価値を下げて輸出を増やそうとしたことがあったからです。

 

かつては金が貨幣の価値を決める基準となる「金本位制」がとられており、国は自らの保有する金の量の分しか紙幣を発行できませんでした。そのため「自国通貨の価値を下げるために通貨量を増やしたい」と、金本位制を放棄する国家が続出したというわけです。

 

次ページ「ニクソンショック」の本当の意味

本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録