適性には「キーパーソンの法則」がある
■キーパーソンの適性
キーパーソンとは鍵になる人材のことです。組織変革だけではなく、経営の事業推進にも有効活用できる人材です。大切なのはその人自身の心のエネルギーと資質です。
心のエネルギーはプラスでもマイナスでもかまいません。不満ばかりで強いマイナスに見えても、本当は「会社を良くしたい」というプラスの気持ちが逆転したものであることがよくあります。ですから、プラスかマイナスかよりも、心のエネルギーの絶対値を見ることです。不満が多い人ほど、改善できることが分かればもっていたエネルギーが一気に良い方向に向くことが多いからです。
そういった人がいた場合、経営者は「あの難しい社員も俺次第でなんとかなるかもしれない」と本人以上に可能性を信じ、扉を開くチャンスをあげるべきです。なにかを変えないとなにも変わりません。経営者が「あいつはだめだ」と思い込んでいる限り、彼はだめな社員であり続けます。しかし、必ず変われるきっかけはあります。キーパーソンを見つけようという経営者の意識がそのきっかけになれば、その時点で組織変革は始まるのです。
発言の数が多いことはキーパーソンの特徴ですが、軽口をたたくこととは違います。場を盛り上げたら「あいつは話がうまい」と仲間からの評価が上がります。仲間にツッコミを入れたり、あるいは自分にノリツッコミしたり、場を仕切って盛り上げようとします。
エースと呼ばれている人に多い傾向であり、経営者は「キーパーソンになるんじゃないか」と思いがちですが、実は違っていることがよくあります。
われわれ組織変革のプロから見ると、そういう笑いを取るような話し方は非常に浅いのです。5秒間は面白くても、結局はほかに発言しようとする人を封じてしまい話が深まりません。場を沸かすことしか興味がなく、面白ければいいというところにウエイトを置いているので、他者がなにを考えどう感じているかはあまり大切にされません。
例えば「なにか意見を言ってみてよ」と人に話を振って、3秒ぐらい発言がなかったら、冗談を言ってみるという行動を取る人もよくいます。その人を助けたように見えるかもしれませんが、発言者の本当の思いは全然聞いていません。キーパーソンの重要な要素である共感力に欠けているのです。そういう人がリーダーシップをとる場では、心理的安全性が確保されず、本音を言いづらくなります。
変革の初期は新しいことに対する社員の認知が追いつかず、モチベーションや意識のベクトルもバラバラなので、衝突や摩擦が起きがちです。特にエースと呼ばれていた人たちが、結果として阻害要因になりやすいです。しかし、変革が進むとキーパーソンや社長など重要人物との関係性が変化していくので、評価軸が変わります。
また、熱血タイプの人が「みんないくぞ!」と掛け声をかけたとしても、必ず良い結果になるとは限りません。もちろん、「流れに乗っておかないと」「面白そうだからやろう」と立ち上がる社員もいるとは思います。
ただ、組織変革は個々人が自分の本当の気持ちや心を探求することからスタートします。ムードメーカーや声の大きなリーダーがいると、とりあえず流れには乗りますが、内側からのやる気や情熱からの行動ではないので継続しないのです。いったん歩みを止めて自分の心が今どこにあるのか探求しなければ、自発性(やる気や情熱)は高まらないのです。
ほとんどの人は、自分が本当はどう思っているのかと振り返ることはありません。しかし、組織変革ではあえて考えてみる必要があります。自分のなかになにかを見つけたら、そこから「俺は、本当はこうしたかったんだ」「俺はこうなりたい」というモチベーションが湧いてきます。個々の社員がそうなることが重要なのです。
ですからキーパーソンは寡黙ではありませんが、雄弁に、情熱的に語る人である必要はありません。
森田 満昭
株式会社ミライズ創研 代表取締役