(※写真はイメージです/PIXTA)

長年連れ添った伴侶と、慎ましくも心穏やかな時間を過ごす老後。しかし、年金だけでは生活費がぎりぎりという現実や、互いに言葉を交わさなくなった生活の中で、「夫婦でいることの意味」を見失ってしまうケースも少なくありません。高齢化と単身高齢者の増加が進む日本において、夫婦二人での“孤立”もまた、見えにくい課題となっています。

「このまま二人で、老いていくのでしょうか…」

「冷蔵庫を開けたら、豆腐がひとつ。しかも賞味期限が2日も切れていて…急に、涙が出てきたんです」

 

そう語ってくださったのは、埼玉県に暮らす前田さと子さん(仮名・74歳)です。定年退職した夫とふたり暮らしで、息子さんは結婚を機に家を出て以来、年に一度、年末に顔を見せるだけになったといいます。

 

夫の年金は月およそ10万円。さと子さんの国民年金が月6万円で、合計16万円の収入では、電気代や灯油代の高騰がじわじわと家計を圧迫していました。

 

「昔は毎日、食卓に何品も並べていました。でも最近は、豆腐を冷奴で出して、それでおしまい。あの人は何も言わないし、食べるだけ。ありがとうも、美味しいも、もう何年も聞いていません」

 

結婚してから約45年。子育てを終え、ようやくふたりきりになったはずの時間が、さと子さんには「耐えるだけの沈黙」に感じられているといいます。

 

「最近は、テレビの音と食器を洗う音しか聞こえないんです。会話がないって、本当に寂しいものです。若いころは喧嘩もしましたが、まだ感情が通じ合っていました。でも今は…空気みたいに、ただそこにいるだけ」

 

ある日、朝起きると、夫が灯油ストーブの前で分厚いセーターを着込み、じっと座っていたそうです。

 

「声をかけましたが、うなずくだけでした。灯油が切れていたんでしょうね。でも、寒いからといっても、動こうともしない。あの姿が、なんだか“終わり”みたいに見えてしまって…」

 

内閣府の『高齢社会白書(令和7年版)』によれば、65歳以上の世帯のうち、6割以上が「高齢者のみの世帯」です。単身高齢者に注目が集まりがちですが、夫婦ふたりだけの生活にも、社会的孤立という課題が潜んでいます。

 

また、総務省の『家計調査(2024年)』によれば、高齢夫婦無職世帯の月平均支出は約25.6万円、可処分所得は約22.2万円であり、毎月3.4万円の赤字が発生していると報告されています。前田さん夫婦のように、年金収入が月16万円しかない家庭では、さらに厳しい状況に置かれていることが想像されます。

 

「年金だけじゃ足りないのは分かっていましたが、ここまで切り詰めるとは思いませんでした。老後って、こんなに寒くて、こんなに孤独なんですね」

 

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