社員同士の関係の質を上げる
▶幹部が生まれ変わる3つのプロセス③関係の質と思考の質を高める
高めるのは関係の質と思考の質です。あと5年ほどしか会社にいないという幹部の他人事的なスタンスを自分事化するためには、内面の深いところから変えていくことが必要です。定年後のスキーも人生の喜びだと思いますが、自分が人生を懸けた会社が発展し部下が成長し続ける姿を見ることはなににも勝る大きな喜びのはずです。その喜びに気づいてもらうことが大切なのです。
高いレベルの喜びに気づくと、幹部は「じゃあ、自分になにができるだろうか」と考え始めます。そこで知識をインプットすると、部下を育成していこう、自分が今まで培ったノウハウを全部みんなに伝えていこう、みんなが働きやすいようにしよう、業者間の契約の不備があるから俺がいる間にそれを解消していこうなど、行動の変化が一気に起こります。
思考の質、関係の質を高めるために、まずは幹部の個人ビジョンが大事です。定年退職したら世界旅行をしたい、しっかり退職金をもらいたいなど、なんでもかまいません。研修ではその個人ビジョンと会社の共有ビジョンを確認します。共有ビジョンが「今の会社組織をうまく運営していくこと」だと理解できたら、「幹部である自分がどのように関われば、彼らを少しでも成長させられるだろうか」と考えるようになります。自分の個人ビジョンと会社のゴールが紐づくのです。
「自分がこの夢を手に入れるためには、社員を成長させないといけない。研修をやったけれどあいつらは変わらなかった。だったらほかに、どのようなことができるだろうか。うまくいっている会社はなにをやっているのだろうか」と、インターネット検索を始めたらもう自分事化のスタートです。
研修でよく行うのは弔辞ワークです。「あなたが死んだとき、お葬式で誰からどんな弔辞をもらえれば、心の底から生きてきてよかったと思えますか」と質問して、参加者に考えてもらいます。そうすると今の自分のあり方と、そのメッセージをもらえる自分のあり方や生きざまに差があることが見えてくるのです。理想と現実のギャップを認識すると、参加者の多くは焦りを感じます。
そして自分のなかで問題解決意識が働き始め「こういう弔辞がもらえるような生きざまにするには、俺はなにをすればいいのか」と答えを探すようになります。経営者が「ああしろ、こうしろ」と言わなくても幹部が自分の頭で考え始めるのです。
関係の質を上げるというのは、上下の関係や他部署との横の関係、役職を超えた関係など、階層や垣根を超えて全方向のつながりを深めることです。私はよく「関係の糸」と表現しますが、糸がたくさん束ねてあれば、1〜2本切れても持ち堪えられます。またたくさんの糸を縦、横に織っていけば布になります。布になると多少引っ張っても切れません。
離職に置き換えて考えると、1本しかないつながりが切れたらその社員は「あの先輩が辞めたから俺も辞める」と簡単に辞めてしまいます。離職率が高い会社の背景にはそういうネガティブな構造があるのです。ですから、関係の糸をさまざまな方向に織りなしておくことが大切なのです。
多層的な関係性のなかで社員の思考が育まれることは離職率の低下だけでなく、社員が「自分がちゃんとやらないとあの部署に迷惑を掛けてしまう」と気づき、自分の行動決定にもつながります。
関係の質を上げるということは、このような部下のセーフティネットを幹部があらかじめつくっておくことなのだと考えることができます。
森田 満昭
株式会社ミライズ創研 代表取締役