(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者施設に入所している高齢父。ひとり娘は近く発生するであろう相続を心配し、対策を試みます。しかしその後、銀行の勧めによってつけた成年後見人の弁護士は、相続対策を「本人の意思ではない」と指摘し…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

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母に先立たれた父…入院を経て高齢者施設へ

今回の相談者は、50代会社員の田中さんです。田中さんの母親は10年前に亡くなり、その後、父親はしばらくひとり暮らしをしていましたが、脳こうそくで倒れて入院し、そのまま介護施設に入所して生活しています。

 

田中さんには兄がひとりいますが、大学を卒業すると早々に郷里を離れ、ほとんど実家に顔を見せることはありませんでした。兄は50歳目前にがんが判明し、わずかな入院期間を経て亡くなってしまいました。

高齢父のサポート役は、50代の娘ひとりだけ

そのような状況のため、父親のサポートは隣県に嫁いだ田中さんひとりで行っています。

 

兄は2人の子どもを残していますが、兄同様、祖父である田中さんの父親に会いに来ることもなく、まして介護の役割分担など望むべくもありません。

 

田中さんの父親は、いつ相続発生となっても不思議ではないといった状況でした。

 

「父はもう長くないと思います。これから相続になったときのことが心配なので、ぜひ相談に乗っていただきたいのです…」

 

田中さんは筆者との打ち合わせの席で、ひとり抱え込んでいる不安を訴えました。

現金に偏った資産構成、不動産購入で節税を図るが…

資産状況を調べたところ、田中さんの父親の財産は、自宅のほか、預金と有価証券がほとんどでした。大手企業の管理職としての退職金のほか、母親が亡くなったときの保険金も手付かずで残っており、結果、自宅不動産が約2000万円、預金と有価証券が約1億円、合計でおよそ1億2000万円との試算結果になりました。

 

このままの状態で相続が発生すれば、およそ1000万円の相続税がかかるため、筆者は節税対策をお勧めし、田中さんも筆者の提案に同意しました。その後、司法書士が父親の意思確認をしながら、預金を解約し、父親名義で4つの賃貸不動産を購入。結果的に、相続税はおよそ130万円にまで圧縮でき、大幅な節税が実現可能になりました。

父についた成年後見人「現金に戻すように」

ところがその後、銀行の勧めにより、父親には成年後見人として弁護士がつくことになりました。するとその成年後見人は、「直前の父親の不動産購入は、意思能力が低下した父親の意思ではない」と提訴。現金に戻すよう申し立ててきたのです。

 

購入時には司法書士が介護施設まで出向いて意思確認をしているのですが、その経緯があるにもかかわらず、弁護士の訴えにより、「和解」という名目ながら元の現金に戻すことになったのです。

 

成年後見人は「財産を減らさず管理する」という立場に立つため、節税のためのマンション購入は父親のためにはならないという判断を下しました。

 

そもそもの立ち位置が違うということからもわかるように、後見人は相続人のためには働いてくれず、贈与も、節税もないということです。

 

弁護士は後見人という立場で、父親名義の区分マンションを全部売却、換金してしまいました。購入時・売却時には仲介手数料や登記費用がかかっていますが、当然戻ってきません。それだけを考えても、成年後見人があえて不動産を現金に戻す必要があったのかは疑問です。

 

後見人は財産を管理する立場です。したがって、節税対策は一切しないというのが現実です。家族円満であるなら、後見人をつける前にみんなで話し合い、対策をすませておくべきだといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

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曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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