経営者と社員との乖離が大きくなり悪循環に陥る
機能不全に陥った企業の幹部にはいかに社長に怒られずに一日を過ごすかということに苦心する人がいますが、このような幹部が多いと末端の社員は指示待ち状態になります。そして、社員に自発性がなくなると非常に効率の悪い組織へと変わります。
セールス部門やバックオフィス部門の社員は、とりあえず今日は昨日と同じことを今月は先月と同じことをすれば怒られないと考えます。また、短期的な業務しかイメージできない社員はクレームが起きても見て見ぬふり、もしくはよその部署のせいにして切り抜けようとします。
業界の勉強もせず、周囲の環境の変化に対応した新しい取り組みもしません。売上が上がらない、顧客からのクレームが多いなど現状の業務がまともに回っていないため、とても新しいプロジェクトなどできないのです。そうしている間にもライバル会社はさまざまな改善や新しいチャレンジをしているので、ますます自社との差が開きます。
先月と同じ去年と同じことしかしていないという状態は、相対的に自社のレベルが落ちていることを意味しているのです。しかし、社員にはライバル会社の動向など視野に入らないので、「去年と同じことをしているのだから同じ給料をください」と平気で要求します。
経営者は1年後、3年後、5年後、10年後と未来を見据えているため、業界の変化やライバルの動きを把握し最新の状況に対応しようとするのですが、現場が1ミリも動きません。そのため経営者は相当なストレスを抱えます。常に未来を考える経営者と目の前のことしか見えない社員との乖離が大きくなると、お互いを理解できず悪循環に陥るのです。
主体的な人材を育てるために経営者も変わる必要がある
先のことが見えていない社員を見て経営者は「社員が育っていない」と考えるかもしれません。しかし、残念ながら放っておいて社員が勝手に育つことはありません。社員の育成は経営者やリーダーの重要な責務です。
人材育成のゴールは主体性や創造性、情熱をもつ社員を育むことですが、それを経営者やリーダーたちが理解できていないと、何事においても「主体性のない社員が悪い」と考えてしまいます。実はこれが問題の本質なのです。現在の社員に主体性がないのが事実だとしても、それを指摘するだけで問題は解決しません。経営者の重要な仕事は「問題の本質的な解決」にあることを踏まえ、経営者やリーダーが主体性のある社員を育てることができていない現状があるのだと内省的に考える必要があると思います。
どちらが正しいかではなく、どうすれば本質的な解決ができるかという視線を経営者がもつことは、組織変革において最も大切なものと言えます。
現代社会は先行きが不透明で、将来の予測が不可能なVUCA時代といわれています。このような時代に、企業はどのような人材を育てるべきかを明確にする必要があります。
これまで日本の企業は「言われたことを高いレベルでやっていればいい」と考える人材を求め、学校でも社会でもそのように育成し、便利に使ってきました。専門性の高い仕事をする社員、例えば溶接の職人であれば、彼らはプロとして最高の溶接技術を提供することに命を懸け、仕事における自分のレベルを上げようとします。このような従順で勤勉、専門性が高い社員は、世界中のどこでも重宝されます。しかし、部門全体、会社全体を見ているわけではありません。
一方、主体性をもって意見を言う人は企業にとって扱いにくい人材であり、これまでは同調圧力を掛けられることがしばしばありました。彼らは旧態依然とした組織にいることがつらく、会社を見限って出ていく場合もあり、それが離職率につながっているのです。
しかし今「言われたことを高いレベルでやっていればいい」という人材がいればなんとか経営できた時代は過ぎ去りました。これからは主体性と創造性、情熱をもった人たちが新たな仕事の進め方を現場で実践する時代に入ったのです。しかし、最初から主体的に行動できる人材は少ないので、会社でそのような社員を育てていく必要があります。いかに社員の内側から主体性や創意工夫、情熱を引き出すことができるかが今後の経営者の課題なのです。
また社員が主体性をもっていても、経営陣が旧態依然とした対応では組織が衰退するのは目に見えています。上から圧力を掛けて封じ込め「言われたことをやらんかい!」と怒るのでは、主体性のある社員はその会社を卒業していくからです。そのため私が組織変革コンサルタントとして関わるときは、早い段階で「経営者自身が成長しないと、経営者よりも人間的に成長した社員はその組織を見限って離職していきますよ」と伝えます。社員だけでなく経営者も成長することで、会社は次のステップへいくことができるのです。