デフレをとめるために必要な「新たな需要の創造」
資本主義の進化をもたらした「消費は美徳」思想
では、デフレにストップをかけるにはどうしたらよいのか。それは、この著しい供給力の増大に対応した新たな需要をいかに生み出すか、にかかっている。望ましいのは生活水準が飛躍的に向上し、消費意欲が活発になって需要が喚起されることである。
そうでなければ過剰生産のために全世界が壊滅的な大不況に陥る。生産性が2倍になったら、生活水準を2倍に引き上げて需要を喚起する方策を取るのだ。
仮に昨年は、年間に100日働いて100万円の給与を得て100万円の生活をしたとしたら、今年は同じだけ働いて200万円の賃金を得て、200万の生活をするようにしないとバランスが取れないのである。
1800年には、アメリカの総人口に占める農業人口は74%だった。それが2000年にはたった2%にまで低下した。200年前は74人が農業生産に従事して100人分の食料を供給していたのだが、いまはたった2人ですむ。1人で1.35人分から、今は50人分つくれるまで農業生産性が上昇したのである。
とすると、それまで農業に従事していた72人は失業ということになる。では彼らはどこに行ったのか? 農業以外の新しい仕事に就いたのである。それがどんな仕事か、現在の私たちの職業をみればよくわかる。
今日の職業の大半は、200年前に存在しなかったものである。それは「人間の欲望を充足する手段としての産業」、言い換えれば人々の生活を豊かにする新しい産業が生まれた。
高度大量消費を可能にするさまざまな工業製品、それを支える石油、電力などのエネルギー関連、増加した所得を処理する金融業、外食、レジャー、スポーツ、エンターテインメント、旅行、ファッション、近代教育、近代医療などの分野で、新しい雇用が生まれた。
資本主義経済は、こうした新しいよろこび、欲求の充足のパターンを開発して発展してきた。新しく社会的な付加価値を産むビジネスが開発されたことで、余剰人員や余剰資本がスムーズに吸収されてきたのである。
かつての王侯貴族のレベルの生活水準を大半の市民が謳歌できていることで、デフレが阻止され、経済成長が続いてきたのである。
マルクスの予言『労働の搾取による資本の過剰蓄積と利潤率低下 → 資本主義崩壊』という暗い将来予想は完全に外れたが、それは人権を尊重する民主主義の下で所得が再配分され、「消費は美徳」思想が勝利したからである。