実は…日本で始まっている「脱デフレ」の好循環
日本でも資産インフレが始まっている
グッドニュースはデフレの最悪期はアベノミクス登場で過ぎ去ったことである。円高が止まりデフレ(恒常的物価下落)も終焉し、日本においても企業には旺盛なアニマルスピリットが戻っている。
リーマンショック後2021年までの世界株価を比較すると、日経平均は4.1倍とドイツDAXと同等の上昇であり、NYダウ5.1倍に続き世界では二番手である。GAFAMにけん引されたナスダックの11.2倍には見劣りするが、中国や韓国の2~3倍と比較すれば良好である。
資産デフレは不動産においても終了している。日本の不動産価格は世界のなかで突出した長期下落のさなかにあった。[図表6]にみるように、2000年以降大半の国で住宅バブルが形成され破裂したが、そのほとんどは数年で底入れし、過去のピークを奪回している。
日本だけはバブル崩壊後20年にわたって下落が続いたが、アベノミクスが始まった2013年以降、マンション価格と商業用不動産価格は大きく上昇に転じている[図表7]。
価格競争力復元が企業収益急伸をもたらす
また、2021年度の日本の企業収益は過去最高を更新する勢いである。[図表8]により法人企業統計の経常利益率を辿ると2013年ごろまでは4%を天井として循環していたが、2013年頃より急伸し今日でほぼ8%と過去最高水準である。
日本企業の価格競争力を損なった超円高が終焉し、価格競争力が急回復したことが大きく寄与している。円の実質実効レート(2010=100)は1970年の70から1995年には150へと急伸したが、2021年には再度1970年代の70へと戻った。
それは日本企業の国内コストが貿易相手国に対して2倍に上昇し価格競争力を著しく損なったが、そこから日本の相対物価が1995年比で半減し、価格競争力が著しく回復したことを示している[図表9,10]。
また企業の経営改革も進展している。DX革命、GX革命を前に企業改革が待ったなしであるという覚悟は、今や共有されている。
銀行や財閥系などのエリート企業の指定席であった株式時価総額上位に、キーエンスやリクルート、信越化学、日本電産、ダイキン工業、村田製作所、HOYAなどのグローバルニッチトップ企業が名を連ねるようになった。経営改革に先行したソニーや日立も復活している。
現実社会における課題解決にハイテクをどう活かしていくか。新フロンティアとしてのサイバーとフィジカルの統合(cyber physical interface)で活用されるセンサーやモーター、パワー半導体などの要素技術において日本は世界最強の多くのプレイヤーを擁している。
金融でも、世界に冠たるベンチャー資本家孫正義氏、世界に類例のない投資銀行である総合商社、SPA(製造小売り)を極めたファーストリテーリング、マッチングビジネスのリクルート、EVで世界をリードできる可能性があるトヨタ等、ユニークなビジネスモデルが揃っている。日本企業の出番が近づいている。
株式投資の世界でもこれまでの日銀と外国人に代わって日本の個人が大きな投資主体になっていくだろう。NISA、iDeCoという個人の株式投資口座が急伸し、両者合計で1,200万口座を突破した。
日本では1,040兆円と個人金融資産(年金保険の準備金を除く)の75%が利息ゼロの現預金に眠っており、それは世界最大級の投資の待機資金といえるが、それが今動き出している。
企業における価値創造の復活、株価上昇と個人のリスクテイクの活発化という形で、失われたアニマルスピリットが着実に改善しているのである。今確実に動き始めたこの好循環を守り育てていくことが、強く望まれる。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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