日本人に「消極的経済心理」が染みついた要因
デフレが日本のアニマルスピリットを破壊した
しかし、この消極的経済心理は、日本に昔から備わっていたものではない。20年以上にわたって続いたデフレがアニマルスピリットを破壊したのである。バブルが崩壊して以降、リスク回避、挑戦の回避という選択が常に正しかったのであるから、それが経済心理として定着したのは無理からぬことである。
「キャッシュイズキング」、「下山の思想」、「成長しない現実を受け入れる定常社会論」など、日本にだけ驚くほど多くの反成長主義の主張が生まれたが、そうした日本特有の議論はデフレが定着化したことで正当化されてきた。
デフレは売り手から買い手への所得移転なので、トータルでは中立である。買い手である消費者には有利に、売り手である企業には不利に働くので、消費者にはいいことだという議論をよく目にする。
今時点だけを考えればそのとおりだが、それがどのような結末をもたらすのかが重要である。収益を損なわれた企業は雇用を減らし賃金を引き下げざるを得なくなり、結局失業が増え賃金は下がり、家計の消費を痛めていく。
企業は経済社会で唯一の価値を作り出す主体なので、企業活動を損ないイノベーションを停滞させることは、長期的に大きな損失となるのである。
また、デフレは実質金利を高め、借り手をさいなむ一方、現金選好を高める。将来の貨幣価値が高まるので人々は消費を先送りし貯蓄に励む。そして投資を止め、現金をため込む。経済の血液である資本が循環しないのであるから、体はじわじわと蝕まれていく。これが失われた20年の実態であった。