母親が寂しそう…なぜ家族は老人ホームに無理難題を言うのか (※写真はイメージです/PIXTA)

「母親が1人で寂しそうだからもっと相手をしてあげて」…多くの入居者の家族は、老人ホームに対し、無理難題を言うのが普通です。なぜ職員を困惑させることが起きるのでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で解説します。

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母親が一人で寂しそう…もっと相手をして

多くの入居者の家族は、老人ホームに対し、無理難題を言うのが普通です。そして、その無理難題の多くは、老人ホームの制度を理解していないことによって起きる、ミステイクです。

 

「母親が一人寂しく居室にいるの。介護職員には、自分の母親の相手をもっとしてほしい」とか「家にいる時は、毎日、私が父親の散歩に付き添っていました。ホームでも同じように毎日、散歩をお願いしたい」というような話が珍しくありません。しかも、それが当たり前、当然だ、という顔をして言ってきます。

 

しかし、はっきり言って、これらは無理な注文です。私はこのようなことを言う家族には、次のような話をすることにしています。

 

「あなたの母親、父親は、あなたにとっては、唯一無二の存在ですが、ホームの職員にとっては、80人の入居者の中の一人にすぎません。80分の1です。したがって、自分と同じ思いで、自分と同じ温度で、自分の親と向き合ってほしい、ということは、老人ホームではナンセンスですよ。諦めてください」と。

 

もし、どうしても、それを実現させたいのであれば、方法は一つしかありません。多大な費用を負担した上で、話し相手や散歩をしてくれるヘルパーを雇い入れるしかありません。

 

特に、介護保険法では、身体介助といって生きていくために必要な支援はしますが、生活の質を上げていくための生活支援は保険内ではできないことになっています。つまり、自費で対応しなさいということです。

 

したがって、「排泄介助を適切にやりなさい」は、有りですが、「毎日、長時間話し相手になりなさい」とか、「毎日、散歩に同行しなさい」は、そもそも、介護保険報酬の中では、無理な相談なのです。さらに、それらのことを無償でできる人は、世界中であなたやあなたの家族以外にはいませんよ、と説明します。

 

この話を聞いて「ひどい」と思われる方もいるかもしれませんが、これが現実なのです。介護保険報酬の中には、毎日の話し相手や散歩の費用は含まれていません。

 

介護保険報酬とは、人が生きていくために必要最低限の支援をカバーしているにすぎないということなのです。

 

もっと言うと、しょせん、介護職員は他人です。老人ホームと入居者・家族は、お金を媒介にして、業務を委託し受託しているだけの関係です。でなければ、お互いに、やっていられません。

 

株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

(株)ASFON TRUST NETWORK常務取締役。1965年神奈川県生まれ。日本大学卒業後、不動産開発会社勤務を経て日本シルバーサービスに入社。介護付き有料老人ホーム「桜湯園」で介護職、施設長、施設開発企画業務に従事する。2006年に退職後、同社の元社員らと有料老人ホームのコンサルティング会社ASFONを設立。2010年、有料老人ホーム等の紹介センター大手「みんかい」をグループ化し、入居者ニーズに合った老人ホームの紹介に加えて、首都圏を中心に複数のホームで運営コンサルティングを行っている。老人ホームの現状と課題を知り尽くし、数多くの講演を通じて、施設の真の姿を伝え続けている。

著者紹介

連載失敗しない「老人ホーム選び」の鉄則

※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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