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所沢市は救急対応においては過疎地だった
■所沢ハートセンターの概要
所沢ハートセンターは、急性冠症候群(ACS)や心不全などに対する心臓血管のカテーテル治療を主体とし、24時間365 日救急対応を行う心臓血管治療専門の病院である。2005 年に桜田院長が立ち上げ、開院当初から積極的に救急医療に携わり、多くの命が救われている。現在では、冠動脈インターベンション(PCI:経皮的冠動脈形成術)治療のみならず不整脈アブレーション治療も積極的に行っている。
桜田院長は日本循環器学会循環器専門医であり、地域の心臓血管治療のパイオニアとして、臨床はもとより精力的に講演活動や研究活動を行っている。循環器科医を目指したのは、研修医時代から。
「循環器疾患はがんなどと違い、技術と治療方法など自分の努力で患者を治せる可能性が高い。自分の頑張り次第で患者の予後を変えることができる。だから、循環器の医師を目指した。」と、当時を振り返る。実際に、胸が苦しくて救急搬送されてきた患者がカテーテル治療後に劇的に良くなり、2、3日後に歩いて帰るケースは多い。
開業は桜田院長の理想とする治療を実現するため、形が整えられている。循環器疾患は緊急性が高い。適切で早急な対応が必要であり、検査や治療など必要な時に必要なことをやれることが重要である。特に心臓カテーテル治療は小回りが良くないとできない。心臓疾患は緊急性が高いケースが多く、スピードが重要であり、必要な時にタイムリーに検査ができる施設が好ましい。
検査を待っている間に患者の容態が急変するおそれもあり、迅速な検査と治療が必要である。例えば、大学病院や大規模病院では、緊急ではない限り、専門的な医療機器である冠動脈造影CTの予約は1カ月後になる場合があるため、迅速な検査は構造的に難しい。
循環器治療では患者が必要な時に適宜検査をし、いつでも入院できる体制が必要である。そのため、ベッドの運営も重要であり、急患をいつでも受け入れられるよう空きを確保しないといけない。病院は、利益を考えて満床にする必要があるが、満床では急患を受け入れられないからだ。受け入れ体制をつくらないと緊急性の高い循環器疾患は対応できない。だから小回りの利く環境を自分でつくった。そんな桜田院長の信念が出発点である。
緊急性の高さは、循環器疾患の特徴と言える。例えば、何の前兆もなく働き盛りの人を襲う突然死。この突然死とは、「予期していない突然の病死」であり、原因は急性心筋梗塞、狭心症、不整脈、心筋疾患など心臓病によるものが6割以上と多いことが報告されている(日本心臓財団,1999)。
開業前は所沢の近隣地区にある病院に勤務しており、開業の地は、勤務病院での経験から決定した。当時、所沢地域は心臓疾患の救急医療を担う病院がなく、大学病院で断られた場合は他の地域に行くしかなかった。勤務していた病院では、心筋梗塞で運び込まれる患者の4割が所沢地域の患者だったと言う。所沢は救急対応においては過疎地であり、循環器治療専門の救急対応が可能な医療施設が必要だと考え、現在の地に開業を決めた。
開業当初の10年間は年間800症例以上のカテーテル治療を行うため、毎晩午後10時を過ぎるまで治療を続けていた。今は、医師だけではなく全スタッフの専門性が上がり、治療も日々の業務もスムーズになったと話す。これらの治療を支える常勤の専門医は6人、非常勤の専門医5人で患者を診る。看護師を含めたスタッフは総勢80人である。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長