(写真はイメージです/PIXTA)

賃貸物件の「原状回復義務」をご存じでしょうか? 借りたものを元の状態に戻して返却する義務を指しますが、どこまでを入居者に負担させることができるのかといった点で問題となるケースが後を絶ちません。本記事では、不動産法務に詳しいAuthense法律事務所の森田雅也弁護士がケース別に、誰に回復義務があるのか、またトラブルを予防する方法はあるのか、解説していきます。

ガイドラインが示す「原状回復義務」の基準

国土交通省が公表しているガイドラインは、原状回復について事例ごとに細かく掲載されています。ここでは、このガイドラインにもとづく原状回復義務の考え方を解説します。

 

原状回復の定義

ガイドラインでは、原状回復義務について次のように定義されています。

 

賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

 

この定義を前提として、具体的な事例が掲載されています。

原状回復義務負担の具体例

ガイドラインによれば、原状回復義務の負担者はそれぞれ次のとおりです。ここでは代表的な事例を紹介しますので、より具体的に知りたい場合には、ガイドラインを参照することをおすすめします。

 

なお、それぞれの負担者はいずれも原則的な考えによるものです。傷がついた際の状況などによっては判断が異なる場合もあるため、迷った際は個別で弁護士へご相談ください。

 

<床>
床とは、畳やフローリング、カーペットなどを指します。これについての原状回復義務の負担者は、次のとおりです。

 

入居者負担

・引越作業で生じたひっかきキズ
・賃借人の不注意で雨が吹き込んだことによるフローリングの色落ち
・カーペットに飲み物などをこぼしたことによるシミやカビ
・冷蔵庫下のサビを長期間放置したことによるサビ跡

 

大家負担

・特に破損等はしていないが、次の入居者確保のためにおこなう畳の表替え
・フローリングのワックスがけ
・家具の設置による床やカーペットのへこみ、設置跡
・日照や建物構造の欠陥による雨漏りなどで発生した畳の変色、フローリングの色落ち

 

<壁、天井>

壁や天井とは、壁紙やクロスなどを指します。これについての原状回復義務の負担者は、次のとおりです。

 

入居者負担

・使用後の手入れが悪いことにより付着した台所の油汚れ
・結露を放置したことにより拡大したカビやシミ
・タバコなどのヤニや臭い
・下地ボードの張替が必要となる程度のくぎ穴やネジ穴
・クーラーからの水漏れを放置したことによる壁の腐食
・落書きによる毀損

 

大家負担
・テレビ、冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
・壁にポスターや絵画を貼ったことによる壁の変色
・エアコン設置による壁のビス穴や跡
・日照などの自然現象によるクロスの変色
・下地ボードの張替までは不要な程度のくぎ穴やネジ穴

 

<建具>
建具とは、襖や柱などを指します。これについての原状回復義務の負担者は、次のとおりです。

 

入居者負担
・飼育ペットによる柱へのキズや臭い
・柱への落書き

 

大家負担
・破損等はしていないが次の入居者確保のためにおこなう網戸の張替え
・地震で破損したガラス

 

<設備、その他>
鍵など、その他の設備についての原状回復義務の負担者は、次のとおりです。

 

入居者負担
・清掃や手入れを怠ったことによるガスコンロ置き場や換気扇等の油汚れ、すす
・清掃や手入れを怠ったことによる風呂やトイレ、洗面台の水垢、カビなど
・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
・鍵の紛失や破損による取替え
・戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草

 

大家負担
・専門業者による物件全体のハウスクリーニング
・エアコンの内部洗浄
・台所やトイレの消毒
・破損等はしていないが、次の入居者確保のためおこなう浴槽や風呂釜等の取替え
・破損や鍵紛失のない場合の鍵の取替え
・機器の寿命による設備機器の故障や使用不能

次ページ入居者が「原状回復費用」の支払い拒否…対処法はあるのか

本記事はAuthense不動産法務のブログ・コラムを転載したものです。

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