軽度の知的障がいと認知症をもつ63歳の三栗谷(仮名)さん。両親が亡くなってからはお兄さんが三栗谷さんの生活をサポートしていました。しかし、お兄さんは再婚後、まるで人が変わったように怠慢になり、はては「この子が不自由しないように」と、亡き両親が三栗谷さんに遺してくれていた預金にすら手をつけてしまうのでした……。のぞみ総合事務所代表司法書士の岡信太郎氏が、実際のエピソードをもとに三栗谷さんの親戚が目撃した「深刻過ぎる現実」をみていきます。

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真面目で優しかった兄に起きた「異変」

三栗谷さん(63歳、男性)の貯金が底をつきかけています。

 

三栗谷さんには軽度の知的障がいがあり、60歳を過ぎた頃から認知症の症状も出始めています。これまで、家業のコンビニ経営を手伝ってきました。経営全般は兄が担っていますが、三栗谷さんも商品の陳列や掃除など可能な限り仕事を手伝っていました。

 

三栗谷さんの両親が亡くなってからは、兄が三栗谷さんのサポートをしていました。兄弟協力して、お店を引き継いでいたと思われていました。

 

異変が起きたのは、兄が再婚してからです。それまで、真面目にコンビニ経営に専念していた兄が、人が変わったように怠慢になってしまったのです。

 

お店の売り上げを勝手に使用するようになり、仕入れ先とのトラブルも目立つようになってきました。

「僕、お金がないの…」様子がおかしいMさんの訴え

三栗谷さんには、みっちゃんと呼んでいる従妹の岩崎さん(56歳、女性)がいます。幼い頃から、優しい性格の三栗谷さんを慕っており、今でも〝お兄ちゃん〞と呼んでいます。

 

岩崎さんはコンビニの近くに来たので、久し振りに三栗谷さんを訪ねてみることにしました。ちょうど三栗谷さんは、お店の外で掃除をしているところでした。岩崎さんが、「お兄ちゃん、元気?」と話しかけると、いつもと何だか様子が違います。

 

「ああ、みっちゃん。久し振りやね」と言いつつも、下を向きあまり岩崎さんの方を見ようとしません。あまりに元気がないので、岩崎さんが顔を覗き込もうとすると、ボソッと言いました。

 

「僕、お金がないの……」

 

「どうしたの、急に。何か困ったことがあるの?」と岩崎さんがびっくりして尋ねると、「兄さんに、お前はお金がないからもっと働きなさいと怒られた……」と表情を曇らせます。

 

そのとき岩崎さんは、三栗谷さんの父親が〝この子が不自由しないように、しっかりと蓄えを残している〞と生前に言っていたのを思い出しました。

 

三栗谷さんの父親は、自分たち両親が亡くなった後の三栗谷さんの将来をとても心配していました。そして、岩崎さんやその母親にも、三栗谷さんのことを頼むとつねづね言っていました。三栗谷さんのために、定期預金など積み立てをしていたはずです。

 

「大丈夫よ、お兄ちゃん。お父さんがいっぱいお金を遺してくれているよ」と伝え、その日はその場を後にしました。

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

5年後には「65歳以上の5人に一人が認知症を発症する」といわれている昨今の超高齢社会。認知症は介護などの生活面だけではなく、資産運用や契約など財産面にも大きな影響を与えます。 多くの認知症患者の成年後後見人として…

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