ある82歳の独居老人宅には、高級布団や宝石類、さらにはETF、FXなど金融商品の取引に関する書類が溢れていました。姪や孫が購入先や理由を聞いても「わからない」「忘れた」と繰り返すばかり。しかし、異変の影には悪徳業者や金融機関の姿が……。のぞみ総合事務所代表司法書士の岡信太郎氏による実録をみていきましょう。

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夫の死をきっかけに起きたある独居老人の「変化」

橘さん(47歳、女性)は、最近叔母の出水さん(82歳、女性)の家に行く度に憂鬱な気分となります。

 

大量の高級布団、飲むはずもないサプリメント、それに、指輪やイヤリングといった宝石類……。どれも使うことのない物ばかり。どうしてこうも要らない物を買い続けるのか、本人に確認しても明確な答えは返ってきません。

 

出水さんは、2年前に夫を亡くして以降、今は一人暮らしをしています。出水さんには、 一人息子がいたのですが、 働き盛りの40代で若くしてこの世を去ってしまいました。長男には子どもが2人いて、長男亡き後も孫はよく遊びに来てくれました。今ではそれぞれ社会人となり結婚し家庭を持ったので、なかなか出水さんのところには来れないのが現状です。

 

そんなこともあり、出水さんの姉の子どもである橘さんが、定期的に顔を出して様子を見るようにしています。

 

元々出水さんは活動的で、夫が健在の頃はよく2人で旅行に行っていました。また、美味しいお店を見つけては出かけていくこともあり、橘さんもよく誘ってもらいました。買い物も好きで、通販番組を見てこれはと思えばすぐに購入してしまうタイプでした。

 

夫は資産運用にも積極的で、銀行主催のセミナーによく参加していました。そのため、銀行の担当者に熱心に勧められ投資信託用に多くの口座を持っていました。

 

財産の管理は、亡くなった夫がほとんど1人で担っていました。人に相談する性格ではなかったため、妻の出水さんが口をはさむことはありませんでした。

 

そういった事情もあり、2年前の相続の際には、出水さんが知らない口座がいくつも出てきて手続きに苦労した経緯があります。夫がこれまで通販で買い集めた物の処分にも困り、持て余してしまいました。

 

相続の時の苦い経験もあって、夫を亡くした当初、出水さんは投資用口座を持つことや新たに物を買うことには消極的でした。実際、相続手続きをサポートしてくれた橘さんに対しても「もう物は要らない、信託銀行から届く書類もややこしい」と言って、夫のやり方には否定的となっていました。

 

橘さんもそれに賛同し、「その通りよ。物があっても遺された人が困るだけよ。たくさん口座があっても把握しきれないしね」と出水さんと話していました。その時は、出水さん自身の物や口座についても、少しずつ整理していこうと確認したと思っていました。

 

ところが、それから2年も経たない内にこの有り様。今や、布団は押入れに入り切らない状態です。宝石箱に入っている指輪など、つけているのを見たこともありません。

いつどこで買ったのか…「覚えていない」「忘れた」

一番気になっているのが、それらをいつどこで購入したのか出水さんがほとんど覚えていないことです。

 

「おばちゃん、これはどうしたの?」と尋ねても、「宅配の人が持ってきてくれたんよ。あなたが運んでくれたでしょう」とピント外れの答えしか返ってきません。いつどこで誰から買ったのか何度尋ねても、〝分からない〞〝忘れた〞と繰り返すばかりです。

 

ちょうどその頃、出水さんの孫の1人が久し振りに会いに来るとの連絡がありました。これは、出水さんの現状を見てもらういい機会だと思い、橘さんもそのタイミングで同席することにしました。

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

5年後には「65歳以上の5人に一人が認知症を発症する」といわれている昨今の超高齢社会。認知症は介護などの生活面だけではなく、資産運用や契約など財産面にも大きな影響を与えます。 多くの認知症患者の成年後後見人として…

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