超高齢社会で認知症の高齢者が増加する一方、銀行などでは本人確認の厳格化が進んでいます。こうしたなか、のぞみ総合事務所代表司法書士の岡信太郎氏は、成年後見人として金融機関を訪れた際、不合理な対応を受けたことがあるといいます。今回、金融機関が抱える「深刻な課題」について、岡氏が実体験を交えて解説します。

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年々進む「本人確認厳格化」の背景

現在、各機関で本人確認が求められています。役所、金融機関、保険会社……。事あるごとに本人確認資料の提示が必要となり、本人との面会が必須となるケースもあります。

 

一昔前であれば、必ずしも本人が手続きに行かなくても家族が代行できた事例もあります。たとえば、子どもが親の通帳と印鑑を持って代わりに預金を引き出すことができていました。

 

ところが、最近は本人確認が非常に厳しくなっています。顔写真入りの証明書を求められて苦労したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

親のための支出であっても、本人の確認なしに高額な費用を家族が引き出せる可能性は低いです。近年では、本人が認知症であると判明し、口座が凍結されてしまうケースも報告されています。

 

なぜ、しきりに本人確認が求められるようになったのでしょうか? その背景としては、2つのことが考えられます。

 

1つは、犯罪収益移転防止法という法律が制定されたことにあります。この法律は、別名本人確認法と呼ばれます。

 

元々は、マネー・ロンダリングの防止や資金がテロリストに渡ってテロ活動に使用されることを防ぐための法律です。テロは国内だけではなく、国際的なネットワークがあるとされています。そこで、テロ活動に資金が流れることを防止するという国際的な規制が求められる中で、我が国においても法整備が行われたのです。

 

一般市民に対し、テロのことを言われても正直ピンとこないかもしれませんが、広く規制の網がかけられた状態となっています。

 

2つ目は、いわゆる〝振込め詐欺〞といった犯罪の横行です。犯罪集団は、手を替え品を替え高齢者の資産を狙っています。警察等から注意喚起されているにもかかわらず、年々手口が巧妙化しており、金品を騙し取られる高齢者が後を絶ちません。老後の資産があっという間に奪われてしまう悪質な犯罪が、高齢者の周りには潜んでいるのです。

 

一度、犯罪集団にお金を渡してしまうと、お金が戻ってくる可能性はかなり低いです。このような状況では、金融機関は慎重にならざるを得ません。

 

以上のようなことから、年々本人確認が厳しくなり、本来であればテロや詐欺とは無縁なはずの平穏な一般市民の生活に影響が出ているのです。

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

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