軽度の知的障がいと認知症をもつ63歳の三栗谷(仮名)さん。両親が亡くなってからはお兄さんが三栗谷さんの生活をサポートしていました。しかし、お兄さんは再婚後、まるで人が変わったように怠慢になり、はては「この子が不自由しないように」と、亡き両親が三栗谷さんに遺してくれていた預金にすら手をつけてしまうのでした……。のぞみ総合事務所代表司法書士の岡信太郎氏が、実際のエピソードをもとに三栗谷さんの親戚が目撃した「深刻過ぎる現実」をみていきます。

唖然…親が遺した弟の預金を使い込んでいた兄夫婦

その後も岩崎さんは三栗谷さんのことが気になって仕方ありません。悲しそうな三栗谷さんの表情が忘れられません。心配になり、母親と一緒に様子を見に行くことにしました。

 

コンビニに行くと、今日は店に出ていないとのことでした。隣が自宅となっているため、玄関ドアをノックすると、三栗谷さんが出てきました。中に入ることができたので、岩崎さんは兄夫婦がいないか確認しました。

 

「今日は、お兄ちゃん1人?」と尋ねると、

 

「うん、今日は僕1人。店はアルバイトの人が入っているから今日は大丈夫」と返事をしました。これはいい機会と思い質問を重ねます。

 

「お兄ちゃん、お金はちゃんとある?この前会った時に、お金がないとお兄ちゃんが心配していたので、何か困ったことがないかと思って来たのよ」

 

すると、三栗谷さんは前回と同じことを言うではありませんか。「僕、お金ないの……」

 

心配した岩崎さんの母親が詰め寄ります。「そんなことないでしょう。あなた、ちょっと通帳見せて!」

 

三栗谷さんは、自分の部屋から一冊の通帳を持ってきました。中身を見た岩崎さんと母親は啞然としました。残高がほとんどありません。これは何かの間違いだとページをめくり履歴を見ると、ここ1年で20万、30万と大きな金額が引き出されています。それも、何度も出金されているのです。2人の表情はこわばるばかりです。

 

「他にもあるでしょう。確認するから見せて!」と慌てた母親が催促すると、三栗谷さんの他の通帳はすべて兄に預けているとのことでした。三栗谷さんがよく分かっていないことをいいことに、兄夫婦が使い込んでいたのです。

 

三栗谷さんの将来を心配した両親の想いが消し去られた状態に、2人は打ちひしがれてしまいました。

 

 

岡 信太郎

司法書士のぞみ総合事務所

代表司法書士

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

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岡 信太郎

ポプラ社

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