老後のことを考え、本人が所有する不動産や預貯金などの財産管理を家族に託すことができる「家族信託」。認知症の母親のために利用しようとした息子のUさんは、ある「落とし穴」にはまってしまいました。のぞみ総合事務所代表司法書士の岡信太郎氏が、実際のエピソードをもとに息子たちが陥った「深刻な状況」をみていきます。

家族信託は委託者の「同意」が必須…売却は絶望的に

家族会議を含めこれまでの経緯を司法書士に伝えました。すると、司法書士からある質問が投げかけられました。

 

「ところで、お母様は信託について同意されていますか?」

 

宇都宮さんは、心の中で〝えっ!どういうこと?〞と思いました。最初は、質問の意図がまったく理解できませんでした。〝兄弟全員が納得していて、兄弟間で争いがないので問題ないのでは?〞と考えていました。

 

ところが、話はそう簡単ではないようです。

 

「家族信託は、財産を預ける委託者であるお母様とそれを預かる受託者である宇都宮さんとの契約になります。つまり、お母様が契約の内容を理解しないとそもそも契約が成立しないのです」

 

宇都宮さんは初めてそのことを聞いて、頭が真っ白になりました。〝認知症になった人のための制度だと思っていたが、母親が認知症だと信託は使えないのか……〞

 

そんなこととはつゆ知らず病院とはすでに、施設に入所する方向で話を進めています。また、今すぐ契約するのであれば退院後に入れる施設を見つけたところでした。入所手続きと並行して、不動産の売却を進めればよいだろうと考えていました。建物は老朽化していますが、立地がいいので売却は可能なはずです。

 

ところが、肝心の不動産を売却するすべが断たれてしまったのです。そのことを、兄弟に伝えると兄弟も啞然としています。それどころか、宇都宮さんは他の兄弟から、「何とかしてよ!」と言われてしまう始末。

 

母親のことは任せっ切りで、自分たちはいつも口を出すだけ……。〝それはこっちのセリフだ!〞と言い返したくなりました。

 

 

岡 信太郎

司法書士のぞみ総合事務所

代表司法書士

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

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