接客マニュアルなどない。「互利互理」接客する販売員、お客が土産を持ってやってくる行列ができる販売員…。なぜ多士済々の販売員が育っていくのでしょうか。飯田屋6代目店主が著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)でその理由を明かします。

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接客のときに大切にしていること

■「互利互理」で絆を育む

 

「お時間は大丈夫ですか? もっといいものがないか探してもいいですか?」

 

お客様のご要望に合いそうな商品を見つけ出し、「これでいいや」とお客様が財布を開こうとしているときに、こう提案をするのは杉山研二です。「これでいいや」ではなく、「これがいい!」と思える体験をお客様にしてもらうために、接客に要する時間は長くなっても最高の1点を見つけてもらう姿勢を彼は貫いているのです。

 

料理道具は工業品であっても、少しずつ形や色が違うものもあります。それを、いくつも見せ、いちばん気に入ったものを持ち帰っていただくため、お客様に最後まで丁寧に付き合っている姿をよく見かけます。

 

たとえば、19世紀から続くドイツの職人一家、ターク一族が製作する鉄製フライパン「ターク」。1枚2万円のものなど高価ですが、100年以上使える耐久性があります。

 

鉄の厚さも2〜3㎜と一般的なものと比べて約2倍もあり、穴が開く心配もありません。

 

厚みのある鉄は熱がゆっくり伝わるため、肉などの食材をおいしく調理してくれます。長く愛用したいというお客様には、特におすすめしたいフライパンの一つです。

 

この商品、1枚の鉄を叩き出してつくられています。ですから、ハンドルやフライパン皿の部分の形状が1枚ずつ微妙に異なります。

 

多くの店では、フライパンの形を1枚1枚見比べてから販売するということはまずありません。しかし、杉山は倉庫にある在庫を全部持ってきて、すべてパッケージを開けてお客様に1枚ずつ見比べてもらい、気に入ったものを買ってもらうのです。

 

初めてその接客を見たときに、こんな接客の仕方があるのかと驚きました。

 

木製まな板を販売する際も同様です。木製まな板は天然のものなので、同じ模様のものはこの世に二つとありません。店内にある在庫と倉庫にあるまな板を並べて、どの木目をお客様がもっとも気に入るか見てもらってから最良の1枚を販売しています。

 

その姿勢に、価格の高い安いは関係ありません。2000円台のまな板でも、1万円を超えるまな板でも、お客様にとって最良の1枚を提供しようとします。

 

ただ売るだけでなく、販売した後も、もっと喜んでもらえるように、もっと大切に使ってもらえるように考えて杉山は販売しています。「接客のときに大切にしているのはお客様の納得感。買った後で絶対に後悔させたくない」という彼の気持ちの表れです。

 

そんな杉山は、自分が仕事で大切にしている考え方を「互利互理(ごりごり)」と表現します。互は「お互い」、利は「利益」、理は「理由」と「理解」です。お客様が道具を探されている理由を、どんなに時間がかかったとしても最後まで理解し、お客様の利益が自分の喜びにつながる仕事をするという意味です。

 

この考えには、自分だけが利益を上げる仕事も、お客様だけの利益につながる仕事もありません。杉山は、お互いが納得してともに喜び合い、お互いが後悔しない仕事こそが、その後も長く続く絆を育むことを知っているのです。

 

そのような彼の行動は、終礼の感謝の時間で共有され、みんなが杉山の素晴らしい考えや行動を真似しはじめています。僕自身も杉山の接客を積極的に真似している一人です。こうした一人の優しい行動がみんなの意識強化につながり、飯田屋のファンをつくっていくのです。

 

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※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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