日本民法では共同相続人「全員一致」の必要があるが…
■日本民法と韓国民法における限定承認の違い
日本民法と韓国民法における限定承認の違いは、限定承認の手続きが単独で行えるか、共同で行わなくてはならないかにあります。
日本民法では、共同相続人全員の同意のうえ、共同相続人全員で限定承認を行う旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
上記のように、「共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。」とあるため、共同相続人がいる場合には、共同相続人全員が一致して限定承認の申述を行う必要があります。
しかし、韓国民法では、相続人一人ひとりが限定承認を行うか、単純承認を行うか、相続放棄するかを選択することができます。
相続人が数人あるときは、各相続人は、その相続分に応じて取得する財産の限度でその相続分による被相続人の債務と遺贈を弁済することを条件として相続を承認することができる。
上記のように、「各相続人は~(中略)相続を承認することができる。」とあるため、共同相続人全員で限定承認の申述を行う必要はありません。
さらに、日本民法になく、韓国民法には存在する規定があります。
それは、単純承認後の限定承認への切り替えです。
▶韓国(民法1019条第3)
第1項の規定にかかわらず、相続人が、相続債務が相続財産を超えているという事実を重大な過失なく第1項の期間内に知らず、単純承認をした場合には、その事実を知った日から3ヵ月以内に限定承認をすることができる。
単純承認を行っていたときであっても、3ヵ月の期間内に相続財産よりも相続債務が多いことを知ることができなかった場合には、その事実を知った日から3ヵ月以内に限定承認の申述を行うことで、限定承認への切り替えができるという規定です。
この規定は日本民法には存在しません。日本民法では単純承認を行った後に、「相続債務が相続資産より多い」と知った場合でも、原則として単純承認を行ったものと取り扱われ、相続人は資産を超える債務まで負担することになります。
なお、韓国民法1019条第3項の規定は、本当に「相続債務が相続財産を超えている事実を知らなかったのか」また、そこに「重大な過失はなかったのか」など、事実認定をめぐって争いになるケースもよくあります。よってこの規定があるからという理由で、単純に限定承認に切り替えることができると考えるのは大変に危険です。
実務的には、法定の3ヵ月以内の期間内に家庭裁判所(家庭法院)への申述を行っておくべきです。