「相続放棄」韓国民法のほうが「手間を要する」ワケ
■日本民法と韓国民法における相続放棄の違い
先述の通り、相続放棄の効力は日本民法、韓国民法ともに「相続開始時に遡って、相続人でなかったものとする」という取り扱いとなっています。
日本民法と韓国民法の違いは、親族全員が相続放棄を行うこととなった場合の手続きにあります。
日本民法の場合、まず、相続権第一順位の相続人である「配偶者と子」が相続放棄の手続きをします。
配偶者と子の放棄が完了しますと、配偶者と子はいなかったものとされるため、親が生存していれば、相続権は第二順位の「直系尊属(※)」に移ります。
※ 直系親族のうち、父母・祖父母など自分より前の世代を直系尊属、子・孫など自分より後の世代を直系卑属と呼びます。
そのため、次はその直系尊属が相続放棄の手続きをします。
直系尊属の放棄が完了しますと、第三順位である「兄弟姉妹」に相続権が移るため、兄弟姉妹も相続放棄の手続きを行うことで相続人全員の放棄が完了することになります([家系図①]参照)。
対して、韓国民法では相続権の第一順位は「配偶者と直系卑属」となっています。そのため、配偶者と子供全員が相続放棄をした場合、二親等の直系卑属である孫に相続権が移転することとなります。
そのため、次は孫全員が相続放棄を行い、さらにその子(被相続人のひ孫)がいれば、そのひ孫も相続放棄を行い…と直系卑属全員が相続放棄を終え、ようやく相続権第二順位の直系尊属に相続権が移転することとなります。
直系尊属に相続権が移ると、続いて直系尊属が相続放棄を行います。その後、相続権の第三順位である兄弟姉妹も同様に相続放棄を行います。
さらに、韓国民法では相続権は第四順位の「傍系血族」まで広がることとなりますので、三親等の傍系血族であるおじ・おばなどが相続放棄を行い、続いて四親等のいとこなども相続放棄を行うことで、全員の相続放棄が完了することになります([家系図②]参照)。
このように、韓国民法では相続人の範囲が広いため、全員が相続放棄を行う場合にはかなりの手間を要することとなります。