中小企業のなかには、数少ない主力商品に依存し、長年同様のビジネスを繰り返しているところもあります。しかし、ビジネスを取り巻く状況の変化や、新しいテクノロジーの開発・普及がおこれば、あっという間にビジネスは行き詰ってしまいます。北海道で豆菓子の製造販売を展開するある企業の実例から、中小企業でしばしば起こる経営上のピンチについて解説していきます。

一本足打法のリスクを痛感

不況の風が徐々に強くなっていました。「このまま売り上げが減っていったらどうなるのだろうか」と考え、バターピーナッツだけを商品として経営していくことの危険性を感じました。主力であり、唯一と言ってもよい商品が売れなくなるということは、企業の基礎体力が落ちるということです。体力が弱っているところに突発的な不況が襲ってくれば、一気に経営は傾きます。

 

私が今、身近で世話になっている百貨店業界は、国内の低価格志向やECに向かう中でインバウンド需要などに重きをおきながら商いをシフトしていきました。しかしコロナ禍に見舞われ、インバウンド需要が減少するという事態に直面しました。そこで百貨店業界は原点に立ち戻るかのように、出店メーカーと一層手を携えながら難局を乗り越えようとしています。

 

もう一つとてもお世話になっている銀行業界でも、時代の変化に応じた対応は行われています。我が社の浮き沈みに親身に取り組んでくれる銀行ですが、かつては金利が事業の柱の時代もありました。しかし低金利・マイナス金利の時代となり、さらにDXによるキャッシュレス決済の普及と、環境は大きく変貌しています。それに伴い、銀行は投資商品やコンサル事業の充実などに加え、かつてないほど顧客目線に立ち、顧客とともに歩む体制へとシフトしています。

 

これらは大手企業が時代の波を的確に乗り越える能力を持っていることを示しています。生産規模の面では中小企業は人や資金などのリソースが少ないため、大手企業と比べて一本足打法になりがちです。例えば取引先が一つしかない会社は相手の会社が傾くことによって経営危機に陥ります。メーカーの下請け会社などがこのパターンです。主力商品が一つしかない会社も同様に、その商品が衰退したときに経営危機に陥ります。バターピーナッツ頼みであった当時の私たちの会社はまさしくこのタイプでした。

 

リソース不足の課題を解決する方法として、常にブームの商品に乗り変えながら短期的に収益をおうこともできます。しかし私たちの場合はそのような事業モデルは不向きです。設備投資の金額が大きく回収するまでの時間がかかるため、細かな転換ができず、スピード感をもってトレンドに合わせるのが難しいのです。また、こだわりを持って世に送り出す商品ですので、経営者の意識の面でも転換も進まず、一層窮地に陥る状況となります。

売り上げが減る一方、人件費は増え続け…

当時、地方の中小企業は、価格競争のほかに、人手不足と消費者ニーズの多様化という向かい風も受けていました。地方の中小企業が人手不足に陥っていく背景としては、都市部と地方、大手と中小企業の格差が広がっていったことが挙げられます。

 

グローバル化の波で輸出を得意とするメーカーなどが順調に業績を伸ばしていく中で、大企業は本社機能を都市部におくようになり、都市部に仕事と人が集まり始めました。 その結果、地方の中小企業の労働力は不足していきました。

 

人材が見つからず、採用するためには給料を増やさなければなりません。価格競争を生き残るために生産コストを抑えなければならない一方で、人件費や採用費用などのコストが増えるという状態に陥っていったのです。

 

 

池田 光司
池田食品株式会社 代表取締役社長

 

 

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