会話も身なりもきちんとしていた67歳の不動産オーナー。確定申告の打合せのため、会計事務所の担当者がオーナーを久しぶりに訪ねると、辺りに空き缶やワインボトルが転がり、様子がおかしくなっていました……のぞみ総合事務所代表司法書士の岡信太郎氏が、実際のエピソードをもとに不動産オーナーが陥った深刻な「お金のトラブル」を紹介します。

「意思確認」できず…“資産があるのに払えない”状況に

息子は、父親がアパート経営を続けていくことは難しいだろうと考えています。アパートの大規模修繕あるいは建て替えの話になったときに、とても対応できる状態ではありません。それよりむしろ、支払いに追われる状態から抜け出すことが先決です。

 

今の内に売却して、売った資金を元手に栄養管理が行き届いた施設に移った方が本人のためではないか、という思いを強くしています。

 

不動産会社に確認したところ、現段階であれば買い手は見つかるだろうとのことでした。残っている借り入れを返済しても、手元に現金が残るとシミュレーションしてくれました。そこから、これまでの滞納分に充てることができます。

 

とはいえ、一時的にまとまった現金が入ったとしても、本人が先を見据えながら生活できるかどうかとても不安です。息子が不動産売却の話をすると、「車を買いたい」と言い出す始末です。支払いのことなど、頭にありません。売却できたとしても気持ちが大きくなり、将来のことを見通せず飲み代などに使ってしまう可能性があります。

 

不動産会社の担当者からは、「本人の意思をはっきり確認できないためすぐに売却することはできない」と言われてしまいました。実際、担当医からも脳の萎縮が進んでいて、重要な財産に関することについて理解するのは難しいと診断されています。

 

本人に面会すると、「金を貸してくれ」と酒代をせがんできます。通帳には、ほとんど資金が残っていないため、正直本人に渡すようなおカネはありません。

 

保有資産があるのに支払いばかり増えていく現状に、息子は戸惑いや動揺を隠せません。

 

 

岡 信太郎

司法書士のぞみ総合事務所

代表司法書士

 

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

5年後には「65歳以上の5人に一人が認知症を発症する」といわれている昨今の超高齢社会。認知症は介護などの生活面だけではなく、資産運用や契約など財産面にも大きな影響を与えます。 多くの認知症患者の成年後後見人として…

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