長寿化や婚姻率の低下、熟年離婚などを背景に、「高齢者の一人暮らし」が増えている現在……このような「身寄りのない高齢者」を襲う悲惨な実態について、司法書士のぞみ総合事務所の代表司法書士である岡信太郎氏が、実際にあったエピソードを紹介します。

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断られ続ける「身寄りのない高齢者」の行き先

ケアマネージャーの住野さん(52歳、男性)は、ため息をついてしまいました。「また断られてしまった……」

 

住野さんが担当する加山さん(82歳、女性)は、退院後は施設に入る予定です。加山さんに合いそうな施設を住野さんが探しては、問い合わせをしているのですが、どこからもよい返事がもらえません。

 

「保証人がいないなら、うちではちょっと……」
「月々の支払いは大丈夫なんでしょうね?」

 

問い合わせ先の担当者からの言葉はどれも住野さんの心に刺さります。確認した施設側は、加山さんの支払い能力が懸念材料の1つとなっているようです。

 

しかし、住野さんの見立てでは、そこは心配ないと考えています。加山さんの通帳を現在は住野さんが預かっており、まとまった金額が入っていることを誰よりも知っているからです。

 

全財産を把握しているわけではないので、安易なことは言えません。それでも、見つけた施設の料金体系には見合っています。そういう状況だけに、住野さんは思うようにいかずもどかしさを感じています。

 

とはいえ、 「では、誰が払ってくれるのですか?」「身元引受人は、どなたがなられるのでしょうか?」と言われてしまえば、答えに窮してしまうのも事実です。

進む認知症、ゴミ屋敷…加山さんの「深刻すぎる」状況

住野さんが担当する加山さんは、入院前まではマンションで一人暮らしをしてきました。ところが、3カ月前に玄関の前で倒れているところを、同じマンションの住民が発見し、緊急搬送されたのです。一命は取り留めたものの、下半身に麻痺が残り言葉も上手く出てこなくなってしまいました。

 

それだけではありません。認知症もかなり進んでいます。簡単なことであれば、右手を挙げて答えてくれることがあります。しかし、自身の今後の生活のこととなると、その意向を確認することは困難な状況です。

 

医師からは、「今後、自宅で生活することは無理だと考えています。もし自宅に戻っても、また病院に運ばれることになるだけです。脳にダメージが見られ、認知症の症状も改善は難しいと思われます」との説明がなされました。住野さんも、同じように考えています。自宅に戻ったところで、1人で生活することは困難です。

 

そんな事情を知ってか知らずか、病院からは退院後の行き先を決めるよう促されます。自宅は加山さんが所有しており、戻ろうと思えば戻ることは可能です。しかし、生活できる環境ではありません。今やゴミ屋敷となっているのです。

 

足の踏み場もないほどに、荷物やゴミが散乱しています。冷蔵庫の中は賞味期限切れの物ばかりが入っています。お風呂場には、あろうことか段ボール箱が押し込まれています。これまでお風呂に入っていたのか疑問が残るばかりです。部屋全体の臭いも酷いもので、これでは近隣から苦情が出ても仕方ありません。

 

住野さんは、部屋の中を見て、一刻も早く加山さんを施設に入れたいとますます強く感じるようになりました。とはいえ、加山さんは独り身で協力してくれるような人がいないのが現実です。施設入所への壁が立ちはだかります。

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

5年後には「65歳以上の5人に一人が認知症を発症する」といわれている昨今の超高齢社会。認知症は介護などの生活面だけではなく、資産運用や契約など財産面にも大きな影響を与えます。 多くの認知症患者の成年後後見人として…

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