年間9000超の救急搬送…「断らない医療」をどう実現したか

二次医療圏で機能的に救急医療を実践する病院の事例から【後編】

年間9000超の救急搬送…「断らない医療」をどう実現したか
(※画像はイメージです/PIXTA)

年間約9,000件に及ぶ救急搬送に応え、ウォークイン患者2万人を受入れる断らない医療の実践は、患者の信頼につながる。埼玉石心会病院に行けばどんな状態でも必ず引き受けてくれて、最高の医療を提供し、病気を治してくれるという信頼感は救急医療を支える。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房、2020年11月刊)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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    「断らない医療」を実現する仕組みとは

    (1)事例におけるユニークな視点

     

    ■理念を実現するための戦う城を築く

     

    石原病院長(当時)は、理念を実現するために細かすぎるほどの神経と情熱を使い城を築いている。城は単なる箱ではない。この城は、効率的で効果的な高度医療を提供し、患者の病気を治すだけではなく患者の心を癒し、職員に働きやすさとひと時の安らぎを与えている。

     

    石原病院長(当時)の患者の病気を治す思いと職員のベストパフォーマンスを引き出す思いは、玄関からはじまり、救急救命の場であるER総合診療センター、手術センターの廊下、最先端の手術室、レストランから医局までと、ありとあらゆるところで表現されている。

     

    これらの環境があるからこそ、医師を含めた職員は、とてつもなく多い救急要請やウォークイン患者を受入れ、高度な医療を提供することができるのであろう。

     

    石原病院長(当時)は、建設中もメジャーをいつもポケットに入れて、臨床の合間をみて、臨床現場の目線で城づくりに情熱を注いでいた。この新病院は、理念の実現のために不可欠な、まさに戦うための城なのである。ここまで繊細に実現させる情熱とパワーは、総司令官だからこそ持ち合わせることができる才幹なのであろう。

     

    ■職員のメンタルを支える環境をつくる

     

    理念を実現し、このハードな現場を乗り切るため、職員のメンタルを支える環境が第一に考えられている。先に記したように、安らぎを与える設備的な環境はもちろんのこと、職員のモチベーションを保たせることは、何よりもメンタルを支えることにつながる。資格や認定試験の合格者を職員全員が毎日見る場所に掲示するなど努力を可視化し、数字に表れない貢献を評価することは職員のやる気につながる。

     

    また、医師をはじめとする職員のアイディアを設計に採用し、形として反映させることは、モチベーションが向上し、職場に対する職員の満足が高まる。そして、最終的には病院へのロイヤルティの向上につながる。

     

    (2)集患効率を上げるポイント

     

    集患戦略は、重症軽症にかかわらず、すべての救急患者を受入れ、総合的に幅広く治療にあたる「フルカバー戦略」により、患者の信頼を獲得している。

     

    ■断らない医療の実践と高度医療・専門性の強化

     

    年間約9,000件に及ぶ救急搬送に応え、ウォークイン患者2万人を受入れる断らない医療の実践は、簡単なことではない。しかも、救急車応需率99.7%という驚異的に高い救急要請への対応は、医師を含めた全職員が理念を理解し、熱い思いで取り組んでいるからこそ実現できている。

     

    「ER総合診療センター」「心臓血管センター」「低侵襲脳神経センター」は、多くの救急搬送に専門的に応えるための特徴的な仕組みである。それぞれが高い専門性と最新鋭の医療機器、システムを備え、高度な医療に取組んでいる。低侵襲脳神経センターでは、ハイブリット手術室により、多機能による治療の実現を可能としている。

     

    これらは、有効に機能し、埼玉石心会病院に行けばどんな状態でも必ず引き受けてくれて、最高の医療を提供し、病気を治してくれるだろうという患者の信頼を獲得している。

     

    これらは、地域の医師の信頼も得られている。近隣の診療所の医師は、「石心会病院は、大学病院を超えて、救急患者を受け入れており、高度な医療を提供し、治療の専門性も高いため、患者を安心して紹介できる」と話している。地域医療において、これらは患者を集めるための重要な要素である。

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    患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

    患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

    杉本 ゆかり

    千倉書房

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