コロナ病床の設置では「言うは易く行うは難し」を実感
今回は、文章を書いてきた約1年半を振り返りたいと思います。さまざまな取り組みを通し学んだことを紹介したいと思います。
この期間、まずはやはり新型コロナの対応でした。筆者が勤務するときわ会グループは、クリニックを立ち上げての検査対応から始まり、新型コロナ専用病床の開設、ワクチン対応、陽性者が溢れかえってきてからの他施設における新型コロナ専用病床への転換と取り組んできています。「実際になんとかしなければならない」という差し迫った場面それぞれに関われたのは、非常に良い経験になりました。
新型コロナ対応を振り返ると、地味なことの積み重ねだったように思います。
はじめのうちは数件のPCR検査で一苦労でした。ときわ会グループの各施設からかき集めたスタッフが対応することになったわけですが、慣れない建屋を利用することになったため、自動ドアの電源の入れ方もわからない、補充用のコピー用紙がどこにあるかもわからない、電子カルテの操作がわからずなかなか先に進まないといった状況がありました。保健所からFAXで届く検査者情報は潰れてしまっていて読み取れないということもありました。
今となってはすっかり柔軟な対応ができるようになっています。スタッフが慣れ、スキルも向上したことに加え、モノの置き場や車の誘導方法を微調整したり、連絡の取り合い方を整理したりするなど、現場での細かな工夫が積み重なった結果です。
専用病床の設置に関しては、「言うは易く行うは難し」ということを実感しました。「モノをこんな感じで揃えておいて」「ここに壁を作っておいて」「ここのトイレを増やして」などと簡単に言われますが、事務方として、時間が限られる中で各方面の調整をしながら手配していくのは非常に大変なことだとよくわかりました。
結果としては、専用病床を準備すると決まってから2週間程度で設置が完了した実績もできました。必要な物品をホームセンターで買ってくる、ビニールシートを手作業で張り巡らせる、細かな機器の設定をするなど、現場で走り回る若いスタッフがいたことが大きな力になりました。行政側との様々な手続きも必要でしたが、検査対応を皮切りに、グループと行政との間で醸成されてきた関係性があったからこそ生まれたスピード感がありました。
2022年4月から研修医の受け入れがスタート
さて、ときわ会グループの常磐病院で「基幹型臨床研修病院」の指定を獲得し、初期研修医を採用することができるようになったのも大きな出来事でした。福島県いわき市は「医師不足の土地」であり、初期研修医の受け入れは、地域にとって大きな力となります。
2022年4月からいよいよ、実際に自院で採用した研修医の受け入れがスタートします。
これは、「地域医療のためならば」ということで、様々な方のお力添えがあって実現したものでした。
厚労省の方に手続き全体のアドバイスをいただくことができ、指定の要件を達成するための具体的な策の実行においては、福島県立医大の竹之下誠一理事長をはじめ多くの先生方から応援をいただくことができました。さらには臨床研修病院の指定について諮られる県の地域医療対策協議会のメンバーであり、ときわ会とも地域医療連携推進法人として関わりのある医療法人社団茶畑会の立谷秀清理事長にも、市民、県民からの視点でアドバイスをいただくことができました。
プロジェクトの中心に立ち、各方面への働きかけを担ったのは常磐病院乳腺外科の尾崎章彦医師でした。筆者も事務スタッフとしてその横で中心的に関わることができ、貴重な経験になりました。「社会から期待されていることに、当事者として応えていくのだ」という実感を持って取り組むことができました。
「人との関わり方」については毎日が勉強
もう一つ、ときわ会が他の法人から運営を引き継いだ磐城中央病院を、事務長として強化しようと取り組んでいることにも触れたいと思います。実際に中に入り、リーダーシップを発揮し実行するのは大変なことなのだと学んでいます。特に、人との関わり方について、勉強の日々です。
磐城中央病院はもともと別の医療法人が運営していた施設だったので、当然、ときわ会グループの施設になる前から勤務しているスタッフもいます。同じ施設内でも「旧法人の人」と「ときわ会グループの人」とが対立しているような場面も見受けられました。また、磐城中央病院の中にいると、同じときわ会グループ内であるにも関わらず、ときわ会グループの中核である常磐病院からの否定的な目線も感じることがあります。
表面的には応援してくれているように見える人でも時折、「あそこは下請けなんだから」「やっぱりあそこの医者は患者を断るんでしょうね」といった言葉が出ることがあります。筆者自身はまだ、もともと常磐病院にいたので、「立場が変わると接し方もこんなふうに変わるのだな」と客観的にいられるのですが、関わりのないスタッフにとってはかなり苦しいことだと思います。モチベーションが下がってしまい、良い結果にはなりません。同じ立場で汗をかくことが大切なのだと思っています。
否定的な目線ともうまく関わらなければならない。決して気分の良い仕事ではありませんが、人との関わり方の勉強にはなります。
また、人との関わり方といえば、これは磐城中央病院に限らない話ではありますが、医師の対応で苦労する場面があります。
例えば、患者さんが並んでいる中、イレギュラーな対応をしておりスムーズに流れなくなってしまった際、医師が突然感情的になり、「もうここではできないから。誰か他にお願いして」などと平然と言い放つことがありました。
もちろん診療はスムーズに流れなければなりません。しかし周りのスタッフが何とか対処しようとしている中、肝心の医師がうまくコミュニケーションを取りながら主導しようとすることなくその場を切り捨てる、というのでは困ってしまいます。なんとかお願いして診療を継続していただけるよう交渉するわけですが、こういった場のフォローは決して気分の良いものではありませんし、褒められたものでもありません。周りのスタッフのケアも必要です。1日がこのようにして過ぎ去ることもあります。
今いる病院ではありませんがが、院内のPHSを投げつけて壊すような医師もいますし、「誰のおかげで飯を食えていると思っているんだ?」などと恫喝・罵倒する医師もいます。診療が滞るような問題があった場合には当然解決せねばならないとはいえ、一般的に「問題あり」と見做されるような存在でも、医師というだけで大目に見ることになるというのは、何とも歯痒いものです。代わりがいないことも事実で、それを理解した上での言動なのでしょう。
心理的安全性が担保されているとは到底いえない環境が一部に残っています。何とか改善したいのですが、人間そうは変わらないでしょうから「薄める」しかないように思います。良い人材を増やしそちらを盛り上げることです。
地域医療のためにも「人材が成長できる環境」が必要
さて、筆者が勤務するグループでは、次のトップへの引き継ぎを見据えた動きが生まれてきています。
「組織の良し悪しはトップ次第」と言われます。次の数十年、グループがどうあるかは次のトップにかかっているとも言えます。そしてグループがどうあるかということは、この地域の医療がどうなるか、ということと密接に関係します。事務方として経営層のサポート部門である以上、今後を見据えどう動くべきか考えます。
筆者なりに今後のことを考えると、「人材を確保し育てる」ことに尽きるのではないかと思っています。医師だけではありません。看護師や薬剤師、技師といった医療専門職もそうですし、事務方ももちろん同様です。
人材を確保するには、成長できる環境を用意することだと思います。一方で、教えれば育つということはなく、環境を与えることしかできないとも思います。活躍のきっかけとなる役割を与えることです。筆者自身、クリニックの閉院、研修生の受け入れから基幹型臨床研修病院の指定獲得、VIPのアテンド対応、うまく「お引き取り願う」仕事、新型コロナ対応、新規編入病院の立て直し…など、役割を与えられたことが良い経験になってきていると思っています。
成長できる環境を用意することが地域医療のためになるということで、筆者自身、精進を重ねながらお手伝いできればと思っています。
杉山 宗志
ときわ会グループ
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