(※写真はイメージです/PIXTA)

リアルの小売り店舗の価値を新しく打ち出した新業態も芽吹きつつあります。具体的には、従来のように「消費者に売る」ことではなく「消費者に新しい価値を提供する」ことで、収益化を試みるビジネスモデルです。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で明らかにします。

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    ニューヨークにあるものを何でも買えるが

    これとは別に、試験的にネイバーフッドグッズにブランド紹介を任せる方式もあり、こちらは新興ブランドに人気があるという。体験空間づくりの支援内容は標準方式と同じだが、月額料金が抑えられていて、これに販売歩合が加わる。

     

    この歩合について、「普通の百貨店に短期で出店する場合は卸売価格で出すので、それ以上の儲けは百貨店の取り分になりますが、それに比べたら、当社の取り分ははるかに小さい額。それでもうちとしては意味のある収益源」(アレキサンダー)だという。さらに、同社はECサイトやレストランでの飲食による収入もある。

     

    「非常に信頼できるモデルであることがわかりました。従来のように小売り事業用不動産という視点で見たら、絶好の投資回収期間であり、売り場面積当たり売上高といった重要指標もいい成績が期待できるとあって、収益性の高いモデルです」

     

    アレキサンダーと最初に出会ってからほぼ2年後、ニューヨークシティで知らない者はいないシェルシーマーケット内に、2号店がオープンした。ところが1カ月ほどでニューヨークはロックダウンに突入した。2020年6月にようやくアレキサンダーと連絡がついた。感染拡大で多くの小売業者のように壊滅的な影響を受けているのではないかと心配していたが、オンラインの売上高が予想を上回る状況だという。不安に揺れているはずの小売業界で、このような楽観論は異例中の異例だ。

     

    ネイバーフッドグッズのビジネスモデルは、経済的なメリットにとどまらず、本質的に「流行仕掛人」型の小売業者と言える。この「流行仕掛人」型の小売業者は、新興ブランド、異色ブランド、新進ブランドの世界の目利き役として、厳選した成果を提示することで、顧客が何かに出会える場を創り出す。

     

    ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツのパートナー、ベネディクト・エバンスは次のように説明する。

     

    「インターネットのおかげで、ニューヨークにあるものを何でも買えるようになった。けれど、ニューヨークで買い物をするような体験は、ネットには望めない」

     

    優れた目利き力と見事な売り場づくりの品揃えのなかで何かに出会える喜びは、目の肥えた消費者にとって大きな魅力だ。

     

    「流行仕掛人」型のビジネスモデルは、ウィリアムズ・ソノマなど従来の卸売りモデルや小売りモデルもあれば、ネイバーフッドグッズのように、もっと小資本のRaaS(小売りのノウハウやデータをITと連携させて業者向けに提供するサービス)モデルや小売りをメディア化したモデルまで、その形態も多種多様だ。

     

    平たく言えば、「流行仕掛人」型の仕事は、膨大な選択肢を徹底的に厳選し、顧客が信頼を寄せる視点を提示することにある。

     

    ダグ・スティーブンス
    小売コンサルタント

     

     

    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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